市大数学教室

大阪市立大学大学院理学研究科数物系専攻 21世紀COEプログラム

結び目を焦点とする広角度の数学拠点の形成
(Constitution of wide-angle mathematical basis focused on knots)
+ トップページに戻る


拠点形成の目的

本拠点がカバーする学問分野は、結び目理論を中核とし、位相幾何学、双曲幾何学、函数論、可積分系をはじめとした数学のほとんどの最先端学問分野である。それは量子統計力学を中心とした理論物理学、環状DNAの遺伝子合成研究、ポリマーネットワーク、認識科学、複雑系の科学、天文学等の先端科学とも関連する広領域研究としての側面も持つ。結び目理論は、3次元空間内の結び目・絡み目・グラフや4次元空間内の曲面結び目・曲面絡み目の位相の研究を中核として、近年急速に発展した学問である。

結び目理論を焦点とした数学および物理学、(生)化学等関連科学の優秀な研究者を育成するために、数学研究所を設立する。当研究所が、結び目関連で世界中から研究者が一度は訪ねてくる、結び目関連情報が整っている、結び目に関する真理と美を深く追求する、結び目研究の世界の中心となることが5年後の到達目標である。

  1. 本学は、伝統的にトポロジーに強い大学として知られ、20年以上に渡りクック(KOOK)セミナー(神戸大、大阪大、大阪市大、関学、奈良女大の専門家により組織された幾何学トポロジーセミナー)を大阪市大文化交流セミナーで運営し幾多の人材を育てた。過去から積み上げてきた研究実績や、結び目関係の国際会議の組織運営、国際研究雑誌の編集実績、大学の支援でCOEによる結び目関連教員の配置があること等々を考え合わせると、国際的に見て本学はまとまって結び目を焦点とした数学の教育・研究に適した場所といえる。

  2. 世界で最初の結び目理論国際会議(1990年代表幹事河内)を大阪で開催(当時最高レベルの結び目研究者国外60名、国内114名が参加)し、641ページにも及ぶ会議紀要を編集発行(Walter de Gruyter、1992)した実績がある。その後はいろいろな国で同様な国際会議が開催されるようになったが、ほとんどの結び目関連の国際会議の主要講演者リストには本学教員、出身者またはクックセミナーメンバーが含まれている。

  3. 本学の数学教室は、2002年発行の「外部評価報告書」において研究組織、教育活動、研究活動すべてにおいて高い評価を受け、数学研究の選抜の厳しいプリンストン高等学術研究所(Institute for Advanced Study)への2学年在籍者が3人いる(拠点リーダーは当研究所のEinstein Legacy Society会員でもある)ことや、他大学に比して教員数の割りには多くの国内外の有力数学研究者が毎年研究のため訪れていることは、当数学教室では質の高い研究・教育が行われている証拠である。

  4. 本学の数学教室はまた、大阪大学数学教室と共同で国際的に評価の高い国際数学研究雑誌“Osaka Journal of Mathematics”を編集発行し、また結び目関連の国際雑誌の編集委員も出しており、結び目理論が爆発的に研究されるようになった時期(1990)に結び目理論の全体像を網羅した解説書「結び目理論」(河内編著、シュプリンガーフェアラーク東京)を刊行し、その英語拡大版(Birkhauser1996) はポリマーネットワークや認知科学(人工知能)など数学以外の科学の分野でも引用されている。これらもまた質の高い研究が行われている証拠である。

  5. 結び目理論に関する「日韓セミナー」は九大の加藤氏と河内が調整役で、10年以上継続して開催してきた。2003年以後は日中韓合同会議「東アジアセミナー」に拡大される(東大松本、早大谷山両氏と河内が発起人)。本学とメルボルン大学との学術交流協定で結び目研究の交流もあり、日本・メキシコトポロジー定期会議(既に2回開催)にも深く関与している。環状DNAの数学研究者との研究交流もある。これらは本拠点が国際研究センターとなるべき条件を備えている証拠になる。

文部省(当時)の「平成9年度我が国の文教施策」の第一部「未来を拓く学術研究」(http://wwwwp.mext.go.jp/jky1997/)の報告には「幾何学の結び目理論は、量子統計力学を中心とする理論物理学はもとより、遺伝子DNA(デオキシリボ核酸)の結び目分類として生化学にも応用され」との表現で、先端科学における結び目理論の数学研究の重要性・発展性が指摘されている。さらにつぎの結び目理論の特性もまた、現代数学研究における結び目理論研究の今後の重要性・発展性を示唆している。

  • 量子統計力学を中心とする理論物理学、環状DNAの遺伝子合成研究、ポリマーネットワーク、認識科学、複雑系の科学、天文学等、結び目理論に関連する先端科学について、結び目理論の具体的なモデルによりその本質を説明できる場合が多く、科学の基礎研究のモデルになり得る。

  • 数学の抽象的で高度な理論を具体的な対象である結び目に適用できる。

  • 結び目そのものは紐の絡まる状態のことで易しく認識できるが、それをどのような視点から数学するかにより、初等的レベルから高度なレベルまで、さまざまな数学研究が可能である。言い換えると、研究レベルに達するまでに数年かかる他の数学の最先端研究分野と比べて、予備知識を必要としない初等的レベルでも取り組めるような研究も存在する。

このように、結び目理論は将来にわたりはかり知れない重要性・発展性の見込める稀有な数学研究分野である。

結び目理論の研究者人口は今日世界的に大変に多くなっているが、とりわけ日本には多くの研究者がおり、いくつかの著書で断言されているように、日本での結び目理論の研究レベルは国際的にみて高いレベルにある。本学では大学からの支援でCOEによる教員が配置され、事業終了後も当拠点に世界中から結び目関連で人が来続けるような(その結果、結び目理論研究が盛んな他大学にも結び目関連で人が来るような)世界的拠点としての環境が整うことが、当事業の成果として大いに期待できる。今日世界的に研究者人口の多い結び目理論にも関わらず、結び目理論の専門家の中には研究の進展の象徴であるフィールズ賞受賞者がいないことが国際的に言われている(関連研究者の中には他分野に比べ多くいるが)。当事業により、結び目関連の数学研究者の層も厚くなり、ハイレベルの若手の国際的研究者が多数育成され、その結果として基礎科学への大きな貢献がなされることが期待できる。また一般学部学生に結び目の構造を講義することにより、将来数学ばかりでなくいろいろな科学研究の中で結び目の知識を活かせるようになる。

結び目理論の数学研究は1970年の終わり頃から、数学のいろいろな研究分野のみならずいろいろな科学とも結びついて盛んに研究されるようになり、研究者人口は今日世界的に大変多くなっている。とりわけ日本には多くの研究者がおり、いくつかの著書の中で断言されているように、日本での結び目理論の研究レベルは国際的にみて極めて高い。このような中で世界的拠点としての環境が整うことは、結び目を中心とした数学全体の大幅な発展と結び目理論モデルに関連する先端科学の発展が約束されたといっても過言ではないように思う。

今まで結び目理論の研究が盛んでなかった諸外国でも、研究の重要性が認知され始めており、日本が中心になって2国間あるいは3国間の結び目理論関係の定期会合もあるし、今後このような会合は増えていく見通しである。日本での結び目を中心とした数学の拠点形成の事業展開は、各国の結び目理論研究によい刺激を与え、日本を中心として研究はより加速されるだろう。生活の中で使うひもの結び目が科学の基礎研究のモデルになり得ることを宣伝することは、結び目に関心をもつ他分野の研究者が増えるなどの波及効果があり、科学振興上からも有意義である。

Top top

最終更新日: 2003年9月12日
(C)大阪市大数学教室