研究成果
2020年3月17日
- プレスリリース
- 共同研究論文
吉田朋子教授らのグループの研究成果のプレスリリースが発行されました
次世代材料 黒リンの安全で高収率な溶液合成法を開発
~夢の技術 人工光合成を加速~
概要
大阪市立大学人工光合成研究センターの吉田 朋子(よしだ ともこ)副所長、小澤 晃代(おざわ あきよ)らのグループと堺化学工業株式会社は、共同で太陽光エネルギーを利用し、水から水素を生成する際の触媒として機能する黒リンを溶液法で高収率かつ簡便に合成する手法を開発しました。黒リンはリンの同素体の1つで、太陽光の可視光領域の大部分を吸収できる材料として注目を集めていますが、産業上必要となる大量合成が困難であるという課題を抱えていました。今回、安全で無害な赤リンを出発原料として、溶液法にて高収率で黒リンの合成に成功し、大量合成への途が拓かれました。
本内容は2020年3月12日(日本時間)に、英国王立化学会(RSC)発行の化学専門誌のオンラインページに掲載されました。
研究の背景
地球温暖化が深刻な社会問題となっており、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素を発生する石油や石炭などの化石燃料に代わる新たなエネルギー源として、水素が注目を集めています。これまで、太陽光エネルギーと水という身近なものを利用して光触媒上で水素を生成させる研究が活発に行われてきました。黒リンは、太陽光エネルギーの紫外光から近赤外光領域まで利用できる非常に有望な光触媒材料ですが、その合成方法は高温高圧法や化学蒸着法などの合成手法が一般的で、安価に大量に合成することが難しい手法でした。
黒リンをより安価で大量に合成するために溶液法での合成が期待されており、最近になって高温または高圧の溶媒を用いて固体を合成するソルボサーマル法※1という特殊な方法で白リンから黒リンが合成できると報告されています。しかし、白リンは猛毒であるため、安全で無害な赤リンから高収率で黒リンを得る方法の開発が必要でした。
※1:溶媒の加熱反応により材料を合成する手法。
研究内容
当研究では、エチレンジアミン※2を溶媒に用いて、ソルボサーマル法で赤リンから黒リンを高収率で合成する手法を見出し、その反応メカニズムをさまざまな分光法を駆使して明らかにしました。赤リンはエチレンジアミン中に3価のリンとして溶解し、その後リンがある程度集まった0価のポリリンとなり、溶液中で積層して黒リンが形成されるという反応機構を明らかにしました。得られた試料では黒リンの含有率が非常に高く、従来の10%程度から約90%と収率を大きく改善することに成功しています。また得られた試料は助触媒を担持※3すると、メタノール水溶液から、可視光照射下で高い水素生成活性を示し、水分解の光触媒としても有望であることを実証しました。(本成果は、特許出願中)
※2:水、アルコールと任意に混ざり合う有機化合物。化学合成に広く使われている。
※3:触媒として利用する金属の微粒子を担体に付着させること。
期待される効果
黒リンは黒鉛(グラファイト)のような層状化合物で、層の厚みによって吸収できる光の波長を変えることができるため、可視光から近赤外光まで利用できる二次元材料として期待が高まっています。しかし、合成方法が確立されていないため、産業分野での利用例はほとんど報告がありませんでした。本研究により、安全な赤リンから黒リンを高収率で得られ、黒リンを利用した光触媒研究がさらに加速することが期待されます。
また黒リンの単層膜(フォスフォレン)は、2010年のノーベル物理学賞で話題となった黒鉛の単層膜(グラフェン※4)の関連物質であり、優れた導電性を示し、グラフェンにはないバンドギャップを持つ半導体材料です。そのため、二次元トランジスターやセンサーなどの材料分野でも数多くの研究論文が報告されています。本研究の成果が、光触媒化学分野だけでなく電子材料分野でも応用展開されることが期待されます。
※4:薄さが炭素原子一個分の厚さの薄膜高分子。炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。
今後の展開について
黒リンは合成が困難であり、更に大気中で安定性が低いという問題を抱えています。本研究で得られた黒リン合成指針を基に、黒リンの層状面積を大きくする手法の開発や、安定性が向上するような処方の開発に取り組んでいく予定です。
共同研究、資金等
本研究は大阪市立大学と堺化学工業株式会社との共同研究です。また、下記の資金援助を得て実施されました。
科研費・新学術領域研究「複合アニオン化合物の創成と新機能」研究課題16H06440
掲載紙情報
発表雑誌: | Journal of Materials Chemistry A |
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論文名: | Black phosphorus synthesized by solvothermal reaction from red phosphorus and its catalytic activity for water splitting |
著 者: | Akiyo Ozawa (大阪市立大学・堺化学工業株式会社)、Muneaki Yamamoto (大阪市立大学)、Tetsuo Tanabe (大阪市立大学)、Saburo Hosokawa (京都大学)、Tomoko Yoshida(大阪市立大学) |
掲載URL: | https://doi.org/10.1039/C9TA13441G |