研究成果
2018年9月3日
- プレスリリース
- 論文
天尾豊教授らのグループの研究成果のプレスリリースが発行されました
二酸化炭素を有機分子に結合させて固定できる新たな人工光合成技術開発に成功
大阪市立大学 人工光合成研究センターの天尾 豊 教授と大学院理学研究科 物質分子系専攻の片桐 毅之 大学院生(前期博士課程2年)らのグループは、可視光エネルギーにより二酸化炭素を有機分子に結合させて固定できる新たな人工光合成技術の開発に成功しました。本研究成果は、International Union of Pure and Applied Chemistry(IUPAC)が発刊する『Pure and Applied Chemistry』に2018年9月3日に掲載されました。
研究概要
従来の人工光合成技術の多くは、二酸化炭素を一酸化炭素、ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノールに光還元するものでした。これらの系では炭素数1の二酸化炭素を還元していくため炭素数1の分子しか生成しないことになります(図1)。一方、天然の光合成では太陽光エネルギーにより作り出された還元力を使って二酸化炭素を還元、炭素数を拡張し、最終的には炭素数6のグルコースを生成することができています。天然の光合成と同様に炭素数を拡張することができれば、二酸化炭素を原料とした多様な素材合成への新たな展開が期待できます。
図1.従来の人工光合成の概要
本研究では、天然の光合成反応の炭素拡張反応を手本に、色素分子、電子伝達分子および生体触媒を用い、可視光エネルギーによって得られた還元力を基に二酸化炭素を有機分子(ピルビン酸)にカルボキシ基として導入(リンゴ酸が生成)可能な技術を開発しました(図2)
図2.新規人工光合成(今回の成果)
今回新たに開発した反応系は、炭素数3のピルビン酸に二酸化炭素を結合して炭素数4のリンゴ酸に変換する反応を触媒する「リンゴ酸酵素」と、新たに開発した「ジフェニルビオローゲン誘導体」の光還元系を連結したものです。
これまでリンゴ酸酵素を触媒として用い、可視光エネルギーを利用した二酸化炭素とピルビン酸からのリンゴ酸生成系は図3に示すように非常に複雑かつ高価な試薬を使用する必要がありました。特に図3の点線で囲った反応要素は非常に高価かつ効率が低く、これまでの研究の障壁となっていました。
図3
今回ジフェニルビオローゲン誘導体を用いることによって、図の点線で囲った部分を簡略化することに世界で初めて成功しました。これにより、二酸化炭素をピルビン酸に付加させることが可能な新たな人工光合成系構築に成功しました。具体的には、色素として水溶性ポルフィリンを用い、ジフェニルビオローゲン誘導体とリンゴ酸酵素とを連結した反応系において、3時間の可視光照射によって原料のピルビン酸と二酸化炭素の約5%をリンゴ酸に変換できています。これまで二酸化炭素の還元が主流だった人工光合成系に対して、二酸化炭素を原料として利用可能な新たな人工光合成系が達成できたといえます。
今後の展開
本研究の成果は、太陽光エネルギーを駆動力として生体触媒の機能を生かした二酸化炭素の資源化やさまざまな有機分子合成へ展開可能な系です。近年では、生体触媒と半導体光触媒や有機無機材料との複合化に関する研究が進められています。二酸化炭素資源化反応を触媒する酵素は反応生成物選択性が高い利点があるため、今後の新たな人工光合成系として二酸化炭素の燃料への変換のみならず、二酸化炭素の有機分子への結合による多様な化成品や有用物質合成に展開したいと考えています。
補記
本研究成果は、2017年10月にロシア・モスクワで開催された7th International IUPAC Conference on Green ChemistryにおいてRSC Green Chemistry Poster Prizeを受賞しています。
IUPACは1919年に設立され、元素や化合物の命名の標準(IUPAC命名法)として世界的な権威として認知されています。
(RSC:Royal Society of Chemistry イギリス王立化学会)
掲載紙情報
発表雑誌: | Pure and Applied Chemistry (International Union of Pure and Applied Chemistry IUPAC) |
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論文名: | Visible Light-induced Reduction System of Diphenylviologen Derivative with Water-soluble Porphyrin for Biocatalytic Carbon-carbon Bond Formation from CO2 |
著 者: | Takayuki Katagiri, Kohei Fujita, Shusaku Ikeyama, Yutaka Amao |
掲載URL: | https://doi.org/10.1515/pac-2018-0402 |
Article source: 大阪市立大学 website