分子生理学研究室 (旧生体高分子機能学Ⅱ研究室

 多くの動物は、光受容タンパク質である視物質ロドプシンやその類似タンパク質(以後、ロドプシン類と略)により光を受容し、それを視覚情報として利用するのみならず、たとえば生体リズムの調節など視覚以外の情報としても利用しています。これまでに、1000種程度のロドプシン類が多彩な動物種から同定され、少なくとも8種類のグループに分類できることが分かってきました。ロドプシン類は、“光受容”という細胞機能や生体機能の入口に位置し、光受容に特化したタンパク質ですので、それぞれのロドプシン類の分子性状・性質の多様性は、生体や細胞がもつ光受容機能と密接に関連していると考えられます。言い換えれば、多様なロドプシン類が使い分けられたり、または協調的に用いられたりすることにより、動物の持つ光受容が成り立っていると言えます。
 たとえば、ヒトは9つのロドプシン類遺伝子を持っていますが、その中のいくつかは機能がまだ解明されていません。ところが、ヒトには、「未解明な光受容能」が明確ではありませんので、「この光受容能はどのロドプシン類が担っているのだろう?」という、従来型の研究のアプローチは使えません。逆に、ロドプシン類を出発点に研究を進めることが、未知の光受容能を含めた動物の光受容の全体像を理解する最も有効な方法の1つであろうと考えています。そこで私たちは、多様なロドプシン類の性状・特徴とその分子特性をもたらす構造学的なメカニズムを明らかにし、動物が持つ多様な光受容能を、ロドプシン類の分子進化と関連づけながら、理解することをめざしています。
 また、ロドプシン類は、創薬のターゲットとして注目されている7回膜貫通構造を持つG蛋白質共役受容体(GPCR)の一種であり、GPCR研究のトップランナーの1つと位置づけられています。したがって、多様なロドプシン類の分子特性を利用すれば、刺激受容からGタンパク質の活性化に至るGPCRの機能発現の分子メカニズムの解明をすすめることができると考えています。現在、GPCRによるG蛋白質活性化機構の一般性と多様性を理解するために、新規ロドプシン類を新たなGPCRモデルとした解析を進めています。