研究内容 ( RESERACH )

天然有機化合物の全合成

 自然界では多種多様な生物が様々な生育活動を送っており、生物が体内で生産する多くの物質が関係し合って成立しています。このような化学物質の中でも特に、複雑な化学構造をもち、強力な生物活性を発現する、低分子量の有機化合物 ( 天然有機化合物 ) が重要な役割を果たしている場合が多数あります。例えば、フグや毒ガエルは自身の体内に化学防御物質 ( 猛毒のテトロドトキシンやヒストリオニコトキシン ) を内在することで身を守り、ある植物は自身の生育テリトリーを保持するため、他の植物の成長を阻害する多感作用物質 ( アレロケミカル ) を放出しています。このように低分子量の化合物を介して生物間が影響し合い、自然環境が保たれています。従って天然物化学の分野は、自然環境における種と種の生物間相互作用を解明していく上で必須の研究分野となっています。
 また天然物化学の中でも、安価で大量購入できる既知物質を原料として、対象の天然有機化合物を種々の化学合成の連続 ( 多段階合成 ) により供給する学問分野を、天然物合成、または単に全合成と呼び、重要な研究領域の一つになっています ( 下図 )。全合成を通して、自然界からは極微量しか得ることができない天然有機化合物を大量に供給することができ、対象天然物が生体内で果たす役割を解明するのにつながります。その全合成の過程で、新規の合成手法を発見できる可能性もありますし、また合成研究の過程で生成した化合物の中から、医農薬品のシードやリードとなる化合物が生まれることもあります。さらに天然有機化合物の化学構造をベースにした、自然界には存在しない人工誘導体も合成できるため、より強力な生物活性をもつ新化合物をデザイン合成することも可能です。当研究室では複雑な構造を持ち、強力な生物活性を示す天然有機化合物の効率的全合成と、その全合成に応用できる新規合成手法の開発に関する基礎的研究を行っています。



 下図に当研究室において過去に全合成を達成した天然有機化合物と、現在合成研究を展開している化合物の一例を示します。