RESEARCH2

RESEARCH研究内容

RESEARCH2

近年、新しいタイプの配位子として、ホスフィンーオレフィン配位子の研究が盛んになっている。この新しいタイプの配位子は、tripod錯体の三点配位形式をとりながらも、二座配位子と同じ様に、中心金属に対して4電子供与体として働くユニークな配位子である (Figure 1a)。我々は、このホスフィン-オレフィン配位子の母骨格としてハーフメタロセン錯体(具体的にはアレーンクロム錯体、およびCpマンガン錯体)を有するユニークな面不斉遷移金属錯体P-Olefin配位子の開発に成功している。この配位子において、遷移金属触媒の配位部位となるホスフィンとオレフィンを支える分子骨格はハーフメタロセンを用いているため、通常のホスフィンやオレフィン上の置換基変換による立体的電子的効果に加えて、遷移金属自身の電子的な特徴や、原子半径の大きさの違いに基づく配位子構造の変化など、きめ細かなチューニングが可能な配位子となっている (Figure 1b)。

(1) 面不斉ハーフメタロセン配位子の精密設計に基づく高選択的分子変換反応
(徳島大小笠原正道教授との共同研究)

我々は、面不斉アレーンクロム錯体の触媒的合成法における一連の研究の過程で、アレーンクロム錯体を基盤とする面不斉配位子(R)-1を期せずして開発することに成功した。また、配位子(R)-1の構造上の特徴として、アレーン上のホスフィンとオレフィンとで、遷移金属に配位するホスフィンーオレフィン二座配位子として、機能することをX線結晶解析の結果より、明らかにしている。この配位子 (R)-1は、Rh触媒不斉1,4-付加反応において、環状エノンに対して、非常に高い反応性、及び立体選択性を示すことがわかった (JACS, 2014, 136, 9377)。一方、鎖状エノンに対しては、反応性および立体選択性ともに低く、その基質適用範囲は狭さが問題となっていた。また配位子の堅牢性においても問題があった。そこで、これらの問題点を解決すべく、さらなる配位子の改善に取り組み、面不斉Cpマンガン錯体を基盤とする第二世代型ホスフィンーオレフィン配位子(S)-2の開発を行った (JACS, 2014, 136, 9377)。

その結果、クロム錯体配位子1と比較して、大幅に配位子の堅牢性が改善されただけでなく、反応性・立体選択性についても大幅に向上することがわかった (Scheme 2)。なお、本成果は、2017年1月23日 化学工業日報 朝刊6面で紹介された。

(2) 面不斉遷移金属錯体の触媒的不斉合成

従来の不斉合成反応のほとんどは、不斉炭素に基づくキラリティ(中心不斉)を制御するものであり、軸不斉,面不斉,螺旋不斉などを有する化合物の「触媒的不斉合成」は非常に成功例が少なく、この分野は今後の発展が望まれる未開拓な領域としてとり残されている。多くの「非中心不斉分子」が不斉触媒・不斉配位子として利用されており、触媒的不斉合成の分野に寄与できる要素は多岐におよぶと考えられる。
そこで、我々は2011年よりScheme 3に示す面不斉アレーンクロム錯体の不斉閉環メタセシス反応(ARCM)を活用した速度論的分割に取り組み、最高で96%ee, krel 114という極めて高い選択性で面不斉アレーンクロム錯体を光学活性体として合成する事に成功した (Scheme 3)。これは、面不斉アレーンクロム錯体の触媒的不斉合成としては、数少ない成功例である (ACIE, 2012, 51, 2951)。得られた面不斉閉環クロム錯体生成物は、上述のP-Olefin面不斉クロム錯体配位子の原料として活用できる。

さらに、Scheme 4に示すメソ体のN-アリールインドールクロム錯体を不斉閉環メタセシス反応を用いて非対称化することにより、軸不斉と面不斉を同時に誘起することにも成功した(CEJ, 2015, 21, 4954)。また、この反応は、ビアリール化合物にも適用することができ、いずれも99% eeを超える高い選択性で対応する面不斉と軸不斉を合わせ持つ錯体が得られた。得られたクロム錯体は、脱クロム化を行うことにより、光学純度を保ったまま軸不斉化合物へと変換することにも成功している。