RESEARCH3
RESEARCH研究内容
RESEARCH3
ジホスフェン配位子の開発と遷移金属触媒反応への展開
「ジホスフェン」とは、リン-リン二重結合を有する化合物です。ジホスフェンには非共有電子対と二重結合が存在するため、金属元素および配位子の種類などに応じてη1、η2配位の錯体を生じます。また、ジホスフェンには特に低いLUMOを有する特徴があります。
さまざまな有機化合物の合成を可能にする遷移金属触媒反応において、遷移金属元素上に導入する「配位子」は触媒反応の活性や選択性を制御する上で極めて重要です。これまでにホスフィン類などを中心に立体的・電子的に多様な配位子が開発されてきましたが、ジホスフェンを用いた系については未開拓の状況にあります。我々は、新規なジホスフェン-遷移金属錯体の開発と触媒反応への展開を目指して研究を行っています。
ビナフチル置換ジホスフェンの合成とその金(I)錯体による分子内ヒドロアリール化反応
軸不斉のビナフチル基を有するジホスフェンの合成を行いました。光学活性体も単離し、ジホスフェンとしては初めての例となる円二色性(CD)スペクトルの測定にも成功しました(Dalton Trans. 2018, 47, 4437-4441.) 。次に、ジホスフェン-金(I)錯体を触媒としてアリールブチニルエーテルの分子内ヒドロアリール化反応を行ったところ、対応するベンゾピラン誘導体を高収率で得ることができました。また、不斉ジホスフェン配位子を用いて、アトロプ選択的環化反応に適用したところ、わずかであるがエナンチオ選択性が発現しました。本系はジホスフェンを遷移金属触媒反応の配位子として用いた初めての例です。(Organometallics, 2020, 39, 87-92.)
ジホスフェン部位を有する二座配位子の開発と錯形成
エチレン架橋ビスジホスフェン二座配位子を新たに合成しました。パラジウム(II)錯体との錯形成反応では、η1/η1-ビスジホスフェン錯体とη1-ジホスフェン/η2-ホスファニルホスフィド錯体という配位様式の異なる錯体を得られました。後者では、反応に用いたパラジウム試薬上の塩素がリンへと転位しており、理論計算によって、PdP2Cl四員環中間体を経て塩素が移動することを明らかにしました。これらはジホスフェン-パラジウム(II)錯体の初めての例です(Dalton Trans. 2022, 51, 2943-2952.)。
ホスフィンボラン部位を有する非対称型ジホスフェン二座配位子の合成も行いました。ロジウム(I)との錯形成反応では、ジホスフェンのη1配位とBH3のη2配位によってcis配位していた錯体が得られました。この錯体は、ベンズイミダゾールとシクロヘキシルアレンとのカップリングの触媒として作用しました。また、N-ドナー配位子との反応ではジホスフェン配位子が速やかに解離し、その配位力は二座配位子にもかかわらずピリジンと同程度であることを明らかにしました(Dalton Trans. 2024, DOI: 10.1039/D3DT03509C.)。