RESEARCH4
RESEARCH研究内容
RESEARCH4
環縮合位にリン原子を有するπ共役化合物の創製
有機π共役化合物には、発光性・電気伝導性・磁性などの特性を持つものが多数存在しています。主に炭素で構成されているπ共役骨格へ典型元素を導入すると、各元素に固有の特性(電気陰性度、構造、ホール/電子特性など)を付与できます。第3周期15族元素である「リン」は、炭素との安定な共有結合が形成でき、その非共有電子対の酸化や金属元素への配位によって電子状態を大きく変化させられる特徴を有しています。また、リン-炭素結合(約1.8 Å)は、炭素-炭素二重結合(約1.4 Å)と比較して著しく長いことから、リン原子をπ電子骨格の内部に導入した場合には、「おわん」や「らせん」などの三次元構造を発現します。これらの特徴を活かして新しい三次元構造を持つリン原子含有π共役化合物を創出し、その構造や性質の解明、機能開拓を目指しています。
ホスフィンドリジン誘導体の合成と性質の解明
ホスフィンドリジンは、五員環と六員環が縮環し、環縮合位にリン原子を有する化合物です。インドリジンの高周期類縁体、かつベンゾ[b]ホスホールの構造異性体という非常にシンプルな分子ですが、そのπ共役拡張誘導体も含めてその合成は達成されていませんでした。二つのビニル基を有するベンゾ[b]ホスホールの閉環メタセシスにより、ジベンゾ[b,e]ホスフィンドリジンを合成することに成功しました。X線結晶構造解析・各種スペクトル測定により、湾曲した構造や分子全体へのπ共役拡張を明らかにしました。また、非共有電子対誘導体におけるリン原子の反転の活性化自由エネルギー(ΔG)は15.8(1) kcal mol−1と算出しました。(Chem. Commun. 2019, 55, 4909-4912.)
閉環メタセシス反応によるホスフィンドリジン合成法を活用して、ベンゼン環の縮環位置の異なる構造異性体 (ジベンゾ[b,g]ホスフィンドリジン)と3種類のナフタレン縮環ホスフィンドリジンも合成しました。ベンゼン環の縮環位置・縮環数の違いによって、ホスフィンドリジン骨格の電子状態を大きく変化させられることを明らかにしました(Chem. Eur. J. 2023, 29, e202203321.)。
遷移金属触媒反応を活用した環状リン化合物の合成
新規な含リンπ共役化合物の構築につながる遷移金属触媒反応の開発にも取り組んでいます。ジアリール(o-エチニルアリール)ホスホニウム塩に対して、金(I)触媒による分子内ヒドロアリール化反応を適用すると、7-endo-dig生成物であるホスフェピン誘導体を合成できること見出しました。対応するホスフィンカルコゲニドやホスフィンでは環化生成物が得られなかったことから、ホスホニウム塩を用いることが重要です(Asian J. Org. Chem. 2021, 10, 154-159.)。