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2022年2月19日
Ⅱの続きです。
Ⅲ.草の根から社会を変える ―みんなのエンパワメント―
▶繋がるということ
ドーンセンターは、相談事業や支援セミナーなどを実施しており、これまでも支援を必要とする女性たちが自ら、あるいは他から紹介を受けて来館していた。それだけでなく、ライブラリーがあり、貸会議場を行っているので様々な人が日常的に利用している。そして大阪市内のオフィス街にあり、駅近で交通の便が良い。つまり、地理的にも、そしてこれが肝心だが、人目を気にしなくて良い心理的にも行きやすい場所である。「女性のためのコミュニティスペース」はそのライブラリーの中にあり、さらに安心できる場所である。その場所で、館内外の様々な繋がりが活かされて、物と情報と、そして支援者を提供している。
この取組みの実現には、企画、ファンドレイジング、内閣府への申請、広報、そして実際の事業実施のプロセスにおいて、ドーン財団と大阪府がこれまで育ててきた多くの繋がりが活かされている。その繋がりの力が支援を必要とする一人一人の女性へと繋がっている。
繋がりとは、何だろうか。人との繋がりは、拘束的だったり、危険なものになることがある。しかし、繋がりは人が生きることを支えてもくれる。安心安全で、信頼できる繋がりであることが最も大切だが、本人が望む適切な距離が保たれていることや繋がりを選択できることも重要で、そのため、人は柔軟で多様な質の繋がりを必要とする。この取組みは、そのような繋がりの一つを、支援を必要とする女性たちにも、また支援者たちにも与えてくれている。物品提供はその一要素(しかし重要である!)であって、それを通じて人々が信頼できる繋がりを実感すること、「私は出来ている」と自信をもち、嬉しくなり、良い方向への変化を感じとることが繋がりの何よりの成果である。
▶多様性について
このような視点でドーンセンターのある大阪という地域社会を眺めてみれば、何やら大阪が違ったふうに見えてくるのではないか。《多様なかたちでの支援者が、実はたくさんいる大阪》なのである。支援者の多様性はとても重要である。なぜなら、支援を必要とする女性たちが一人一人多様だからである。たとえば厚生労働省のひとり親への就労支援は、看護師と介護福祉士のように職種が限定される。これは政府が不足人材を補うための政策であって、就労支援を必要とする人々の立場に立っていない。服のサイズや化粧の好みが一人一人異なるのと同様に、困っていることも、学びたいことも、やりたいことも一人一人違うのが当然である。この取組みの目的であるエンパワメントを共有したうえで、多くの多様な人々が支援に関わることによって、支援そのものが多様になることが必要なのだ。鏡を見ながらの声かけは、そのように多様な一人一人の素敵さへの心からの応援である。
▶私たちが生きているこの社会を、変える
田間は、調査で女性たちの出産経験を尋ねたことがある。ある女性が、第一子の出産の経験は苦痛しかなかったが、別の医療施設での第二子の分娩直後、「イケるんや、私」と思ったとおっしゃっていた。この一言が心にずっと残っている。出産経験が彼女のエンパワメントになった瞬間なのだ。出産経験だけでなく、自分を信頼し生きていく力をもたらす経験は、いろいろな繋がりから得ることができる。この取組みは、その一つである。そして、繋がりをしっかりと感じる取ることによって、関わった一人一人がエンパワメントし、自分の行動によって社会を変えていく力を得ている。いや、実際にすでにこの社会を変えている。その実感が、さらに人々をエンパワメントするだろう。コロナ禍で本当に厳しい状況だからこそ、この社会のありかたを少しでもより良い方向へと変える必要がある。そのための一人一人の力を、この取組みは私たち自身の内から「ここにあるよ」と引きだしてくれているのだ。
参考文献:キャロライン・モーザ『ジェンダー・開発・NGO―私たち自身のエンパワーメント』久保田賢一・久保田真弓訳、新評論、1996年。 (了)
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