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2020年11月25日
11月15日、第24期女性学講演会第2回をオンラインで開催いたしました。100人近い方にご参加いただき、まことにありがとうございました。第2回の報告者は、京都女子大学の手嶋昭子さん、NPO法人レジリエンス代表の中島幸子さんでした。
第三講演は手嶋さんの「性暴力と司法~なぜ被害者の視点が理解されないのか~」です。社会のなかで性暴力被害者への理解が進まない背景として、司法分野における諸問題が関連していることを指摘されました。
戦後、刑罰権の濫用を防ぐために、刑法の適用は慎重かつ謙虚に行い、刑罰は必要、やむを得ない範囲においてのみ課せられるべき、との考えが主流となりました。しかし、手嶋さんは、性暴力の場合、量刑の軽減が必ずしも再犯防止につながっていないことから、執行猶予をつけて有効な加害者プログラムの受講につなげることが、再犯防止のためにも、加害者にとっても望ましいのではないかと話されました。また、単に加害者が再犯をしなくなる、暴力を振るわなくなることだけがゴールではなく、自分が傷つけてしまった被害者を尊重することを考えることができて初めて、被害者にとっても、社会にとっても、加害者にとっても本当の意味での傷つきの回復につながっていくのではないかということを指摘されました。つまり、性暴力によって傷ついたのは、被害者だけではく、周囲の人も、コミュニティも、関係ないふりをしていても社会全体が傷ついているという認識のもと、性暴力が人の何を傷つけているのか、人の何を侵害しているのかということが、社会のなかでしっかりと理解されて、そのことが裁判という場で明確にされる必要があるということです。まさに、性暴力は加害者-被害者間の閉じられた関係性のなかで生じる問題であるだけでなく、社会における差別、不公正から生じた問題であり、社会全体で意識を変革していく必要のある問題であることを再認識できました。
第四講演は中島幸子さんの「性暴力:その後を生きる」です。中島さんは、性暴力の定義、被害による影響、支援のあり方などを重層的に話してくださいました。
性暴力は性的自己決定権が発揮できなかった状態であり、コンセント(性的同意)が発揮されるには、対等な関係性でなければなりません。特に、脳が発達途中である子どもたち、発達年齢が体の年齢と異なっている人、酔っぱらっている人、薬をたくさん飲んでいる人、意識がない人、眠っている人、身体が不自由な人などのコンセントができない状態にある人たちは、性的対象になってはならないということです。また、性暴力によるトラウマ記憶が脳や身体でどのように処理されるのかや、性虐待などの過酷な経験が引き起こす解離性同一性障害(DID)などの機序を丁寧に説明してくださいました。これらの知識をすべての大人そして、被害者支援に携わる支援者たちが理解しておくことが、性暴力を防ぐためにも、そして二次被害を起こさないためにも重要だということを指摘されました。
また、手嶋さんのお話と通底することとして、性暴力によって何が侵害されるのかということについて、中島さんは、マズローの欲求段階説を援用して、マズローの「生理的欲求」よりもさらに下層に「人間としての尊厳・アイデンティティ(自分らしさ)・希望」の層があって、性暴力はその層を壊されたと感じる体験であると説明されました。性暴力の加害者によって侵害された尊厳、そして生きる希望は、人とのつながりの中で再構築できる、それはたとえ家族以外の他人であったとしても、誰か一人でも「あなたは大切な存在である」と語りかけてくれる人がいれば、そのことが生きる希望、そして回復につながるのだという話をされました。
お二人の話に共通していたメッセージは大きく2つあります。
1つは、人びとが性暴力の問題を他人事として捉えるのではなく、自分事として捉えることの重要性です。性暴力の知識がなければ、加害者・被害者にならないための行動に結びつけることができず、また不用意な言動によって被害にあった人びとに羞恥心を与えたり、さらなる二次被害を与えるリスクがあるということです。
2つ目は、「性暴力によって何が侵害されるのか」という問題の本質です。中島さんは、性暴力が被害者個人に与える影響として、その尊厳、生きる希望が侵害されることを指摘し、手嶋さんは、性暴力というのは被害者のみならず、社会全体が傷つきを抱える出来事であるということを指摘されました。そして、そうした傷つきというのは、人びとが性暴力被害者や加害者に対してどのようなまなざしを向けるのか、あるいはどのようにつながろうとするのかという姿勢によって、癒され、回復に向かう余地が残されているのだという二人のお話に、この問題における希望を見出すことができました。
コーディネーター:伊藤良子
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