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2019年10月2日
濱口桂一郎『働く女子の運命』文春新書、2015年
2018年、日本のジェンダーギャップ指数の順位は、149か国中110位だった。健康分野(41位)、教育分野(65位)は、まあいいとしよう(それでも決して高くはないが)。問題は、政治分野(125位)と経済分野(117位)だ。政治の世界では、まだまだ男性が幅を利かせているのは、国会中継や大臣の顔ぶれをみれば一目瞭然。でも経済では、1985年に「雇用機会均等法」がつくられて以来、女性の職場進出をうながすような法的取り組みが行われてきたのではないか。なぜ今でもこれほど、日本の女性は活躍していないのだろうか。
この本の著者濱口桂一郎氏は、それを日本の労働慣行の特殊性から解き明かす。欧米では、企業が社員を採用する場合、特定の技能を必要とする職務に対して、その技能をもつ人を採用する。労働者は、「会社」に「就社」するのではなく、特定の「職」に「就く」のである。このような労働社会のあり方を、濱口氏は「ジョブ型社会」と呼ぶ。これに対して日本では、企業とは、特定の技能を持つ人をそこにあてはめる職務の束ではなく、会社のメンバーである社員という人の束と考えられている。採用される社員は、特定の職務を遂行するために採用されるのではなく、さまざまな職務を企業の命令に従って遂行することを前提に、新卒一括採用で「入社」させる。日本の企業では社員は、会社の強力な指揮管理のもと、さまざまな部署を配置転換でめぐることを通じて、その会社にあったスキルを身につけていくのだ。このような労働社会のあり方を、濱口氏は「メンバーシップ型社会」と呼ぶ。
ではなぜ、日本ではこれほど女性の社会進出が遅れたのだろうか。世界的に男女平等が進められたのは、1970年代から80年代にかけてだった。欧米では、特定の職務に就く女性を増やすために、さまざまなアファーマティブ・アクションがとられてきた。「ジョブ型社会」では、特定の職務に就けば、男女間に賃金格差はない。だから管理職のように、男性の多い職域に女性を増やすことで、男女平等が図られたのである。一方日本では、バブルに向かうこの時代に、ひたすら「メンバーシップ型」の「日本型雇用システム」が自賛された。そして、男女平等は「総合職」と「一般職」というコース別人事を作ることではかられた。だが会社の主軸となる「総合職」とは、会社の指揮下で仕事も時間も無制限に行うという、「専業主婦」を家庭にもつ男性でなければ、およそ不可能な職務だった。日本の雇用システムは、「近代家族」の仕組みと分かちがたく結びついていたのだ。
そして90年代以降の不況のなか、日本の企業は「一般職」を非正規雇用でおきかえ、「総合職」にはますます長時間労働を強いるようになる。このような仕組みのもとでは、とても女性の社会進出はおぼつかないのである。
本書は「雇用システム」という観点から、日本におけるジェンダーギャップの仕組みを、鮮やかに解き明かしている。この問題に関心を持つ人に、ぜひ一読を勧めたい。 (文責:宮脇幸生)
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