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2019年8月23日
村田京子『イメージで読み解くフランス文学―近代小説とジェンダー』、水声社、2019年8月
筆者は著書『ロマン主義文学と絵画』(2016) において、19世紀フランス・ロマン主義作家の作品を取り上げ、絵画と関連させながらジェンダーの視点から作品分析をしました。とりわけ、男性作家と女性作家の作品を比較し、男性作家とは異なる女性作家の視点を浮き彫りにしました。その延長として、同じく絵画・彫像などイメージを通して近代小説(19世紀フランス文学)を読み解きながら、〈女/男らしさ〉とは何か? を探る試みをしたのが本書です。
本書の特徴は、19世紀に覇権を握ったブルジョワ階級の父権的な価値観に基づく「女らしさ」「男らしさ」の範疇から外れる人物に焦点を絞り、作品を分析していることにあります。逸脱者としての女と男。ときに「宿命の女(ファムファタル)」「ヴィーナス」と呼ばれた彼女/彼らは何者なのか? という問いかけが本書の中心テーマとなっています。
取り上げる作品は、第1章から第4章にかけては、スタール夫人の『コリンヌ』(天才女性詩人)、バルザックの作品(19世紀前半における「宿命の女」像)、ゾラの『ナナ』(19世紀後半における「宿命の女」像)、ゾラの『獲物の分け前』(社交界の女王)です。それぞれ「女らしさ」の範疇から外れた女性たちで、彼女たちは社会にとって、なぜ危険なのか、またはなぜ社会から疎外されたのか、を探っています。第5章では逆に、ロマン主義文学から自然主義文学にかけて、「男らしさ」の範疇に当てはまらない両性具有的な男性を取り上げ、いかに「男らしさの危機」と関連しているのかを探っています。
本書では、絵画・彫像(ギリシアの彫像、ドラクロワ、ダヴィッド、マネ、モネ、モローなど)やモード誌のファッション・プレートなど図版を多数(一部、カラー写真)掲載しているので、文学にあまり興味のない人でも、こうしたイメージを通して作品を読む楽しみを味わってもらえると思います。例えば、第3章で取り上げたゾラの『ナナ』では、ロンシャン競馬場でのグランプリでナナが身に纏った衣装は、バッスル・ドレス(腰を強調するドレス)で、当時流行のクリノリン・ドレス(スカートが大きく膨らんでいるドレス)とは違う、時代を先取りしたものでした。それが何を意味するのか、本書の中で読み解いています。
こうした分析作業を通して、19世紀フランスに限らず、現代の日本にも通じる「女らしさ」「男らしさ」の観念への問題提起を行っていきたいと思っています。 (文責 村田京子)
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