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2024年6月6日

新刊紹介『ジェンダーの視点でよむ都市空間』

地理学とジェンダーに関する著書が発刊されました。本書において共同研究員の福田珠巳教授の論文「ジェンダーと視覚表現ーホームをめぐる表現を読み解くー」第5章が記載されています。以下、福田教授からのご紹介文です。

『ジェンダーの視点でよむ都市空間』 吉田容子・影山穂波編著 古今書院 2024年

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本書のタイトルに「地理学」という表現はありませんが、大学の授業で使用されることを念頭において編まれた人文地理学の教科書です。ジェンダーについては多くの学問分野で研究がなされてきています。それに対して、地理学とジェンダーとの関係というと、首をかしげられるかもしれません。地理学は、その起源を遡ると、土地を記述するという語源が示すように、地表面の記述を中心として、人間生活と自然との関係について探求してきた学問分野です。このような起源に立ち返った説明からは、空間に関する普遍的な知の形成という特徴が強調されてしまいます。

けれども、私たちの身の回りで起こっていることに目を向けると、周囲の空間が決して「透明」で誰にでも等しく広がっているのではないことは明らかです。本書で焦点をあてたジェンダーという視点に注目しても、空間に埋め込まれた、あるいは、空間に投影された不均衡な関係に気付くことでしょう。第1章では、性差が空間に投影されている例として、女人禁制にふれています。制度や慣習によって物理的にある空間から特定の性を排除するということは、目に見えてわかるものです。

しかしながら、私たちが生きる社会を見渡した時、空間に投影された不均衡な関係性は決してわかりやすいものではありません。このような空間に埋め込まれたジェンダー関係を多様な切り口から「見える化」しようというのが、本書の試みです。最初に、地理学におけるジェンダー概念の導入について解説された後、労働、郊外都市と地域社会、ケア・サービス、ホームに関する視覚表現、寄せ場・釜ヶ崎、都市空間における売春街の形成、セクシュアリティと都市空間、移民女性と「場所」、グローバル・サウスの女性労働、開発とジェンダーという多様な切り口からなされた事例が続き、最後には、フィールドワークとハラスメントについて述べられます。

多様な事例に基づいた考察は、人文地理学におけるジェンダー研究の広がりを示しているようですが、一方で、「ジェンダーの地理学」という枠組みのわかりにくさにつながるかもしれません。そのことは、「ジェンダーの地理学」という下位分野が日本の人文地理学のなかで確立、組織化されていないということにも関係します。11人の著者は、各々、都市地理学、社会地理学、経済地理学、政治地理学、文化地理学というような異なる分野の中で研究を行ってきた結果をもとにジェンダーと都市空間にアプローチしているのです。ジェンダー、地理学、都市空間という軸でゆるやかにまとまった1冊として手に取っていただければ、地理学の持つ可能性が見えてくるかもしれません。

(文責 福田珠己)