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2024年7月31日
2024年7月21日、2024年度第28期女性学講演会「保育×ケア×ジェンダー―保育者の労働環境や処遇問題について考える」をオンラインと対面で開催しました。
第一講演は、蓑輪明子さん(名城大学准教授)の「保育労働問題の背景と解決の方向性―ジェンダーとケアの観点から」でした。現在の保育者を取り巻く労働問題について、具体的な数値や制度の実態から課題を指摘し、これらの課題は日本の労働市場・保育制度のジェンダー構造と新自由主義的政策潮流の帰結であること、ジェンダー構造の克服とケア的関係の実現なしに「保育労働問題」の克服はないことを訴えられました。特に、この問題の解決の手がかりとして、労働市場全体のあり方を変えることを提起され、子育てや家庭生活を支える働き方への変革について言及されました。
第二講演は、平松知子さん(社会福祉法人熱田福祉会理事長)の「子どもも大人もしあわせになる保育園」でした。平松さんは、保育園の園長としても勤務されていた経験から、保育現場の具体的な例や、保育者や保護者向けに行った調査の結果を交え、保育者や保護者の労働の現状について述べられました。また、保育者と保護者とが連帯して行った「子どもたちにもう一人保育者を!」という運動についても紹介され、保護者とともに社会を変えること、子どもが大事にされるためにも保育者も保護者も大切にされる保育制度への改革を訴えられました。
第三講演は、木曽陽子(大阪公立大学准教授)の「保育者の労働環境を考えるー早期離職を防ぐ園内体制に関する調査から」でした。保育施設を対象に行った調査結果を、ジェンダーの観点から捉えなおし、保育現場では女性が多数派であるがゆえに、その困難の背景にジェンダーの問題が凝縮されているにもかかわらず、保育現場や自身を含めた保育研究者にその観点が少ないことを批判的に振り返りました。また、ジェンダーバランスのいびつな施設も多く、いかに一人ひとりの違いをふまえた園内体制を整備するかが課題と訴えました。
その後参加者からも多数の質問があり、特に現状の課題を解決するために何をどう変えていくか、それぞれの立場で何ができるのか、特に「ケア」との関連でこの問題をどのように捉えていくかという点について、各講演者から意見を出しあいました。議論が十分深まるところまではいかなかったものの、ジェンダーやケアの観点から保育者の労働を捉えなおすこと、さらにはすべての人の労働を捉えなおしていくことが重要であり、その起点としてケアの倫理があるのではないかと考えました。互いに立場が異なるものであっても、「ケア」という点での共通点があり、そこから立場の違う者同士が連帯していくことが社会を変えていく力になるのではないかと思います。
文責:木曽陽子
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