女性学講演会

2023年5月19日

第26期女性学講演会「戦争とジェンダー」レポート

2022年11月に開催した第26期女性学講演会「戦争とジェンダー―〈日常〉と〈非日常〉を貫く軍事主義と女性の主体性―」について、教育福祉学類ジェンダー系ゼミの学生からレポートを寄せてもらいました。 (教育福祉学類のジェンダーゼミは、センター共同研究員の東優子教授、児島亜紀子教授、内藤葉子教授が合同で担当しています。当時3回生のゼミ生たちが講演会に参加してくれました。)

(*教育福祉学類のジェンダーゼミの紹介はリンク先にあります。)

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教育福祉学類3回生Tさん

内藤葉子「第一次世界大戦とドイツ市民女性運動―戦争協力か平和主義の追求か―」

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 ドイツ市民女性運動は帝政期にはナショナリズムと国際主義で葛藤状態にあったが、第一次世界大戦が始まって市民女性の生活も大きく不安定になったことで、今のこの国の状況で国に残っている自分たちは何ができるかを考える中で、ナショナリズムが前景してきたのだと分かった。平時に周りにいた男性が戦地に駆り出されている中で、女性による女性の動員体制を構築していくことで、公的領域でのジェンダー平等につなげようとしていたことを知った。戦中に国内を回していくのは女性の協力なしではできないことであり、国内の状況を考えると女性は主体性を発揮しやすい状況にあったのだろうと思った。しかしあくまでも女性として女性の分を超えない中での動員体制や主体的行動であったのかが気になった。  

林葉子「日清・日露戦争期の芸妓たちの慈善活動と戦争協力」

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芸妓や娼妓の慈善活動の始まりとして災害時に寄付や義捐芝居の行っていたということを知って、そのような職に就いている人には慈善活動をしているイメージはほとんど持っていなかったため驚いた。近代化以降の戦争での戦争支援活動が中上流階級の女性の活動に先行していたことについても、戦争と芸妓たちの結びつきだけでなく、国内での芸妓たちの立ち位置を考えることで見えてくるものがあるのだと思った。慈善活動について表彰や新聞報道もなされたそうだが、揶揄するように描かれることもある中で、それでも主体的に戦争協力を担ったのは、劣位の立場であることが大きかったのだと思った。女性差別と娼婦差別の両方を負った上での劣等感や罪悪感が主体性の背景にあり、主体性を発揮せざるを得ないような感じというのは内藤先生のドイツでの話とは異なる主体性であると分かった。

橋本信子「女性兵士をめぐるイメージと実態」

IMG_5299日本に住む私たちにとって女性兵士と聞いて具体的にイメージすることや実態がどのようであるかは想像するのは難しい。最近のロシアによるウクライナ侵攻ではウクライナの女性戦闘員の姿が頻繁に報道されているということだが、これは日本や世界でどのように捉えられるものであるか、気になった。第二次世界大戦中のソ連では、戦う女性たちを国民の範として称え、女性英雄の像が各地に建立されたという話を聞いて、なぜそこまで持ち上げられたのかを考えると、ジェンダーの問題が見えてくると思った。純粋に彼女たちの功績や気概を称える気持ちもあるだろうが、彼女たちの苦悩や死は美談のように語られ、また周りを盛り立てていくためにうまく利用されていたこともあるのではないか。軍隊や戦場ではマイノリティであるため、その環境で女性を登用することにより、数的なジェンダー平等は促進されるかもしれないが、ただの数均しではジェンダー問題は解決しないことは明白だと感じた。

秋林こずえ「女性兵士と軍隊内性暴力―米軍の経験」

IMG_5304米軍において女性兵士が軍隊内で性暴力被害に遭うことについて、被害を減らすには、しっかりと女性兵士の権利擁護がなされる必要があると分かった。加害者処罰や軍隊という特殊な関係性の中で女性の権利をどのように守っていくべきかは、軍全体で考えて取り組んでいかなければならないことだと思う。性やジェンダーに関する教育、一人前の大人としての倫理観を醸成するという地道な対策も重要でないかと考える。元々軍隊は男所帯のところという認識が強いことから、異性が入ってくる際には違和感や落ち着かなさなども無意識のうちに感じているのではないか。軍の世界に入ることを考える時、既存の軍だけでなく、女性だけの軍(のような組織)は生み出されなかったのか気になった。しかし女性だけの軍というのはジェンダー平等に寄与するのかは疑問があるし、その中でも差別との戦いは続くように思った。

 

教育福祉学類3回生Ⅰさん

本講演を聞いた感想、私自身の意見を述べていく。私は、戦争と女性の関係となると、慰安婦や女性がどのように国を守ったのかというようなことばかり頭に浮かんだ。しかし、「女性兵士」は意外にも諸外国では身近な物であり実際に戦地で活躍する女性も想像以上に多いことに非常に驚いた。

またそれは最近の話ではなく、半世紀以上も前から取り入れられていたことにも大きな衝撃を受けた。女性兵を賞賛する一方、戦地妻とみなすなど差別的な視点で見られていたことに関しては、現代においても大いにありうる話だと感じた。軍における女性の実情が知られていないことがこれを引き起こす一因であると考える。

今話題になっている自衛隊での性暴力事件のように、セクシュアル・ハラスメントの規制が厳しくなっている現代だが、男性が多い環境においてこのような事件は起こり得てしまう。この事件で明らかになったように、性被害について国・自衛隊が重く捉えられていないことが大きな問題であると感じた。

ジェンダー平等という観点において、女性兵が増えることには個人的に非常に賛同するが、それを行うにはやはり性暴力やセクハラを厳しく規制する取り組みを行うことや、軍や自衛隊における女性の管理職登用というように、組織における女性の活躍推進を図るべきだと考える。圧倒的に男性が多い環境だからこそ、企業や学校における取組よりもしっかりとジェンダー平等に向き合う必要があると感じた。

 

*Tさん、Iさん、ありがとうございました!