Research

研究内容

 有機色素は、19世紀における発見以降、繊維や高分子を着色するための染料・顔料として用いられ、その用途に応じて様々な化合物が開発されてきました。近年、オプトエレクトロニクスの発展に伴い電子産業分野で色素が広く用いられだしたのと期を同じくして、「機能性色素」という言葉が生まれました。これは、分子のπ電子共役が広がるにつれてその物質が可視~近赤外領域の光を吸収するという色素本来の機能に加え、自在に動き回るπ電子に由来する様々な光学的・電気化学的機能(蛍光発光・光異性化・導電性・刺激応答性)が先端材料の担い手としてあらためて注目されたためであります。現在では、液晶ディスプレーなどに用いられる調光材料、CD-RやDVDなどの光記録材料、太陽電池などの光電変換材料など、最先端の工業製品の機能・性能を決定する一部品として、世界中で精力的に機能性色素の開発が行われています。

 機能性色素は、産業分野のみならず基礎科学分野においても重要な位置づけにあります。π電子は比較的高いエネルギーレベルに存在し、光エネルギーを吸収することによって、より高いエネルギーレベルへと移ります(これを光励起という)。光励起されたπ電子系は、そのエネルギーを光によって放出したり(蛍光発光)、その分子の骨格を組みかえたり(光異性化)、さらには電子を他の分子へ移したり(電子移動)します。このようなπ電子に注目した新しい光化学現象の発見、さらには新しい機能の探索は、学術的にも大いに注目されています。もちろん、新しい学理の探究が未来の高性能材料を生み出す礎となることは言うまでもありません。

 π電子化合物は自然界においても重要な役割を担っています。例えば、光合成、植物の成長制御、視覚システムなどが挙げられます。光合成では、光捕集系と呼ばれる色素集合体によって集められた光エネルギーが励起子として反応中心へと伝達され、ここで生じる色素間の多段階電子移動を介した電荷分離状態が、後に続く物質生産・エネルギー生産を促すための重要な鍵となっています。また、視覚システムでは、レチナールと呼ばれる色素の光異性化が視覚系の蛋白質の構造変化を引き起こし、脳への視覚認識信号の伝達を開始します。このように、π電子化合物は、それらが集合することによって、また、他の物質と関わりあうことによって単分子では得られない様々な材料機能を引き出すことが可能です。実際、自然界での色素の働きを模倣することによって、人工光合成などの様々な未来材料を開発する試みも行われています。

 当研究グループでは、新規π電子系化合物、とりわけ機能性色素の開発ならびにそれらの産業分野への応用を目指して、基礎から応用まで幅広く研究を行っています。最新の研究内容は近日中に本サイトに掲載予定です。