研究内容
研究の背景
人類は微生物の力を借りて様々なものを作り出してきました。微生物による抗生物質の生産が発見されて以来、数多くの薬剤探索研究が行われ、様々な薬が微生物から見いだされました。また、発酵醸造食品やアミノ酸などの生産、環境改善においても微生物が活躍しています。数多くの微生物が我々の身近な環境で活躍していますが、最近の研究からこれまでに見いだされた微生物は氷山の一角で、地球上に存在する微生物のほんの数パーセントでしかなく、多くの宝の山がまだ地球に眠っていると考えられています。大きな夢と可能性を秘めた研究対象として微生物が再認識されています。
研究テーマのコンセプト
・ 酵母や大腸菌をモデルとして微生物の可能性を探る
・ 細胞の表層構造にこだわる
・ 誰も知らない微生物の能力を見つける
・ 薬剤開発や食品・環境分野へ広く応用する
1. 酵母の細胞表層構造の解明と創薬応用
・酵母の細胞表層は多糖と蛋白質から構成されその構造体はヘルメットのように頑強です。いったいどのような機構でそれが構築されるのか?とくに、細胞表層構成成分のアッセンブリーに中心的な役割を果たすと考えられているβ-1,6-グルカンの合成機構とそのアッセンブリーについて検討する。
・また、β-1,6-グルカンはヒトにはない細胞壁構成成分で、多くの真菌類で生育に必須と考えられています。従って上記のβ-1,6-グルカンの合成機構とそのアッセンブリーを標的にした抗真菌薬探索系を開発できないか?
2. 免疫賦活パン酵母の開発
・発酵・醸造産業に広く利用される酵母の細胞表層を改変し、食品に新たな機能を付加できないかを検討しています。例えば、免疫賦活能を有する多糖を細胞表層に露出した酵母や細胞外に分泌生産する酵母の開発とその評価を行います。
・酵母の細胞表層に蛋白質が固定される機構の一部、GPIアンカー結合領域やPir蛋白質のグルカン結合領域を用い、酵母細胞表層への人為的な蛋白質提示技術が国内で開発されています。我々は細胞表層環境をさらに改変し、提示した蛋白質の機能を最大限に発揮できないか検討を進めています。
3. 酵母由来バイオサーファクタントの応用
本研究室では、マクロファージを強く活性化するパン酵母変異株には細胞自身に強い乳化能があるという傾向を見出しています。さらに、この酵母由来のマクロファージ活性化物質と乳化物質は、菌体をリン酸緩衝液に懸濁するだけで細胞から容易に遊離してくることを突き止めています。現在は、免疫賦活能と乳化能を併せ持つ成分の応用にむけて、研究を進めています。
4. バイオ凝集剤の開発
小規模な下水処理システム(人口2000人程度の集落)において、発酵後の凝集沈殿物の利用を考慮した新規な凝集沈殿剤を開発できないか? 微生物生産物もしくは、微生物そのものを凝集剤として利用するアプローチで研究を進めています。
5.微生物を用いた金属回収技術の開発
都市鉱山に眠る多くの有用貴金属の回収は、資源利用効率化社会の実現への大きな課題です.一方で,発展途上国における重金属汚染は重大な環境課題であり,有害重金属除去技術の確立は急務です。本研究グループでは、安価な食品添加物であるトリメタリン酸を用いて酵母の細胞壁多糖のリン酸化を行い重金属やレアメタルに対する吸着能が、イオン交換樹脂レベルまで増加する現象を見出だしています。現在は、実用化に向けて、リン酸化酵母のさらなる高機能化や低コスト化にチャレンジしています。
6. 微生物燃料電池の開発
微生物燃料電池とは、微生物が糖などの有機物を代謝することで作り出される電子を、電気エネルギーとして取り出す装置で、新規クリーンエネルギーのひとつとして注目を集めています。実用化に向けては低い出力の向上が急務で、触媒の改善が求められています。本研究では微生物の中でも大腸菌、鉄還元細菌を使用し、遺伝子改変により中枢代謝活性や細胞外電子伝達の制御を行うことで、出力向上のブレークスルーを目指しています。
7. 外膜小胞の産生機構の解明と産業応用
外膜小胞(Outer Membrane Vesicles; OMVs)とは,微生物の外膜から遊離した直径20~250 nmの細胞外小胞であり,外膜タンパク質やリポ多糖類・リン脂質によって構成されています.長い間,OMVsは細胞から不要物を排出する機構でると考えられてきましたが,近年になって,細胞間コミュニケーション物質の運搬など微生物の機能に深く関わっていることが明らかとなってきました。本研究室では、OMVsの産生機構の解明と物質生産など産業分野への応用を目的とし、研究しています。