研究内容
研究内容
液滴の運動制御
壁面上の液滴を運動制御して所定の位置に輸送したり,任意の体積比に分裂させたりする技術は,薬学や化学工学の分野において,微量で高価な液体の混合や輸送,微量な血液のDNA鑑定などへの応用から,近年多くの研究がなされています.本研究室では,これまでレーザー照射による液滴駆動技術や,電場によって液滴のぬれ性(接触角)が変化するエレクトロウェッティング現象を利用した液滴駆動・分裂などについて,そのメカニズムの考察を行ってきました.
近年,表面にマイクロメーターオーダーのしわ(リンクル)を作成する技術が注目されています.図1は,母材表面に特殊なポリマーを張り付け,その座屈によって作成したマイクロリンクルの顕微鏡写真です.このような表面では,リンクルに沿う方向と垂直方向で液体のぬれやすさ(接触角)が異なる異方性が発現します.この性質を利用して,外部エネルギーの必要がない,単純な重力で落下する液滴の運動制御を試みました.実験例を図2に示します.重力方向から斜めに液滴を転落させたり,リンクルの向きを制御することで図のように自在に方向を変化させたりすることが可能です.図2は基礎的な実験例ですが,現在ではより自由度の高い運動制御法について研究を続けています.
空気噴流による壁面微粒子除去装置の開発
半導体素子など様々な工業製品の製造において,洗浄工程の占めるコストや時間の重要度が増しています.従来薬液を用いたウェット洗浄が主流でしたが,大量の薬液消費によるコストや廃液の環境負荷の問題のため,近年空気を用いたドライ洗浄技術の需要が高まっています.本研究室では,空気噴流による洗浄装置の開発を目的として,ノズル内部の構造を工夫し,高速ジェットによる除塵装置の開発を行っています.ノズル内ならびにノズル噴出後の流動について,熱流動解析ソフトウェアFLUENT(Ver.R2)を用いた数値シミュレーションを行っています.図3は,実際に用いられる除塵装置(クリーナー)の概観を表しています.幅0.2mmのスリットから数100m/sの気流を噴出し,壁面上の微粒子を除去します.図3は,ラバールノズルを用いた超音速流の速度の数値シミュレーション結果を表したものです.壁面に至るまで,膨張と圧縮を繰り返すバレル構造が見られ,壁面で強い圧縮が生じている様子が分かります.流れ場のシミュレーション結果から微粒子に作用する力を求めて除塵性能を評価し,最適なノズル形状について検討を行っています.
防波堤を利用した波力発電システムの開発
化石燃料の枯渇や地球環境維持などの観点から,再生可能エネルギーによる発電が注目されています.日本は海岸線が長大であるため,波力がエネルギー源として有望ですが,漁場確保や船舶の航行安全などの観点から,海上に構造物を設置することが厳しく制限されています.そこで,本研究室では図5に示すスリット式防波堤の内部に水車等を設置して発電する新たな波力発電システムを提案しています.防波堤の内部には遊水室と呼ばれる空間があり,波浪により長方形のスリットを通じて海水が出入りします(図6).その際に形成される渦で波を消波する仕組みになっています.海水がスリットを通過する際に流れが整流,加速されるので,この水流を使って水車や屈曲板を駆動して発電します.水車には回転方向が流れの向きに依存しないサボニウス水車を用います.本研究では,図6の1/12の縮尺の回流式小型試験水槽や1/5,1/2の大型波浪水槽を利用して,水車の出力や水車周りの流速測定を行い,システム出力を向上させる手法について検討しています.
界面活性剤添加による管内流の抵抗低減機構の解明
ある種の界面活性剤を溶媒に微量添加すると管内流の抵抗が低減されることが知られています.この現象は,溶液中の界面活性剤分子の集合体であるミセルが流動下でせん断誘起構造(Shear-Induced Structure ; SIS)と呼ばれる新たな高次構造体を形成して乱流渦の成長を抑制するために生じると考えられています(図7参照).しかし,流動中のSISの検出は困難であり,SISによる抵抗低減機構は十分には明らかにされていません.そこで本研究では,溶液に微量添加した特殊な蛍光物質の蛍光強度の変化でSISの発生・消失を検出する手法を独自に開発しました.図7に示すように,添加する蛍光分子はペアになると発光する特性がある一方,SISができると内部取り込まれて蛍光分子が孤立します.このためSISの形成で蛍光強度が低下します.本手法を用いて流動下におけるSISの発生・消失と抵抗低減効果との関係を調べるとともに,レーザードップラー流速計による流速測定を行って,SISの形成による乱流抑制機構について考察しています.
原子スケールの微視的力学に立脚した流体力学・流体工学:ナノフルイディクス
サブマイクロ幅の流路では流体運動に対する壁面の影響が大きくなり,そのような微小流路によって構成された流体デバイスには流体と壁面の相互作用による新奇な機能性を持たせることができると期待されています.本研究室では,流体運動に対して壁面近傍の流体異方性がもたらす力学についてスーパーコンピューターを援用した解析を行っています.図8に示すのは,壁に挟まれた2成分流(動的濡れ)の分子動力学法による解析結果です.図中の長さ1が3.4Åに相当しますので,壁面と流体界面の近傍で急激に変化する複雑な流れが形成されていることがわかります.このような分子動力学解析による知見に基づき,流体運動を記述するNavier-Stokes(NS)方程式に対する適切な境界条件の提案と同時に,壁面・界面を有する系に対するNS方程式の数値計算法の開発も行っています.
より詳細な研究リストについては,メンバーのリンクをご覧ください.