研究テーマ

金属錯体や金属酸化物ナノ粒子を利用して、エネルギー・環境問題の解決に欠かすことができない触媒や吸着剤に関する研究を行っています。 [1] 金属酸化物触媒を用いた酸化反応に関する研究
低級アルカン類の選択酸化触媒として、極微量の鉄やバナジウムなどの遷移金属イオンを添加したシリカが高い触媒活性を示すことを見出した。一般に、シリカ 担体に金属イオンを含浸担持する場合には、対応する金属イオンの硝酸塩を用いる。これは、硝酸イオンを熱分解により容易に取り除くことができるためであ る。しかし、硝酸鉄は水溶液中で水を介した多核構造を取るので、効率よく孤立構造を作ることが難しい。そこで、キレート配位子により、水の配位による複核 化を防ぐことができるトリスシュウ酸鉄錯体や、または、水のような架橋構造を取らないアセトニトリルを溶媒とした含浸法を行うことで、シリカ表面に効率よ く孤立鉄種を作ることに成功し、その結果、選択酸化生成物への選択性を保ったまま、触媒活性を約2倍とすることができた。この他にもオレフィンのエポキシ 化触媒の開発なども行った。

[2] 触媒性能迅速評価手法とコンビナトリアル手法を用いた固体触媒開発に関する研究
固体触媒探索にコンビナトリアル手法を導入するために、まず、多数の触媒材料の触媒反応生成物を迅速に定量評価する手法としてガスセンサ を用いる方法や固体触媒調製を自動で行うことができる実験装置の開発を行った。これらの装置を用いて、低級アルカン類の選択酸化触媒の開発を行った。それ までに見出していたシリカ担体に微量の鉄を担持した触媒に対し、価数が異なる8種類の金属イオンを系統的に濃度を変えて添加し、その触媒活性に与える影響 を調べたところ、セシウム、ガリウム、亜鉛を適量ずつ組み合わせて添加することにより、活性が著しく向上することを見出した。この他にも同手法を用いて、 エタノールおよびジメチルエーテル水蒸気改質反応、低温水性ガスシフト反応、一酸化炭素存在下での水素燃焼反応、SOx存在下での脱硝反応に有効な触媒の 探索ならびに触媒に含まれる成分間の相互作用の整理を行った。

[3] ナノ粒子の固体触媒としての応用に関する研究 
固体触媒の活性や選択性といった特性は、反応場である固体表面の原子配列の影響が大きい。外形が 制御されたナノ粒子では、表面原子の配列が均一であるため、通常のナノ粒子とは異なる触媒活性や選択性を示す例が報告されている。また、ナノ粒子は、単位 重量あたりの表面積も大きいので、単結晶などのモデル触媒を用いて表面科学的手法で得られた知見を実触媒系へと展開し、これらの間のギャップを埋めること が期待される。しかし、ナノ粒子の融点は低く、触媒反応条件下では容易に凝集するので、反応中に失活すると考えられる。凝集を防ぐために、ナノ粒子をシリ カで覆ったコア–シェル型触媒の開発に成功した。また、ナノ粒子合成の際には、保護剤として有機分子が使われるが、その簡便な除去方法の検討も行った。さ らに、ナノ粒子の集合体を用いて固体触媒で初めてタンデム触媒の開発にも成功した。

[4] 水の光酸化ならびに光水素発生触媒反応
天然の光合成反応中心では、光照射により長時間の電荷分離が達成され、正電荷を用いて水の酸化を行い負電荷を用いてプロ トン還元を行う。近年、光照射により天然の光合成系よりも長寿命かつ高エネルギーの電荷分離状態を示す電子ドナー・アクセプター連結小分子が開発されている。このド ナー・アクセプター連結分子と金属ナノ粒子を合わせて用いることで、適当な電子供与剤の存在下で光水素発生を行うことに成功した。水素発生触媒として、白 金以外に、安価なルテニウムやニッケルが使用できる目処も付けた。また、光増感剤としてルテニウムトリスビピリジン錯体を用いて酸化コバルトや酸化イリジ ウムを水の酸化触媒に用いて水の酸化反応もおこなった。その際、対応する有機金属錯体を前駆体に用いて調製することで、通常の金属塩を前駆体として調製す るよりも高活性な触媒が得られることも明らかとした。

[5] 過酸化水素をエネルギー媒体として利用するための研究
燃料電池は化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換できる高効率な発電装置である。一般には水素を燃料とす る燃料電池の研究が盛んであるが、通常、水素は炭化水素の水蒸気改質で製造されるため、極微量の一酸化炭素(CO)を含み、電極触媒を被毒する。また、水 素は容易に液化しないため、持ち運びが不便で ある、空気と混ざると爆発の危険がある、といった理由から、液体燃料による代替が期待されている。過酸化水素は、室温で液体であり、水と任意の割合で混ざ るため爆発の危険性も少ない。過酸化水素は適当な電極を選ぶことで、酸化剤としても還元剤としても働くので、一般の燃料電池で必要とされる電解質膜が不要 である。そのため、一室型の簡単な構造の燃料電池を作ることができる。この過酸化水素を燃料とする燃料電池のカソード電極の開発を主に行った。