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2024年4月1日

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世界初の報告「G-body(低酸素下で集合体をつくる酵素の現象)」でものづくりから創薬まで、新しい道筋をつくる。/三浦 夏子准教授(農学部 生命機能化学科)

※本記事は、大阪府立大学Webマガジン「ミチテイク・プラス」(2020年3月26日公開記事)から転載しています。掲載されている情報は公開当時のものです。

生命現象や生命機能を解明し、その知識と技術を社会に役立てるための学びと研究を通じて、バイオサイエンス・バイオテクノロジー分野で活躍できる人材を育てる生命環境科学域。生命環境科学研究科 応用生命科学専攻の三浦 夏子助教は世界初の報告「G-body」を手がけ、現在、産学協働で創薬に取り組むと同時にサンゴを絶滅の危機から救う共生菌の研究も行っています。
三浦助教に、世界で初めて「G-body」を発見したきっかけや研究者として心がけていること、今後の目標などについて伺いました。

三浦夏子さん

PROFILE

三浦 夏子(みうら なつこ)

  • 大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科 応用生命科学専攻/生命環境科学域 応用生命科学類 助教
    (発酵制御化学研究室)
  • 取得学位:博士(農学)( 京都大学 ) 
  • 研究分野:応用微生物学、分子生物学

「G-body」とは「低酸素下で集合体をつくる酵素の現象」と伺いました。代謝系酵素が集合すると、どのような作用があるのですか?また、どのようなことに応用できるのでしょうか。

代謝系酵素は、私たちの身体の中では糖を分解する働きを担っています。代謝系酵素が集合すると散らばっている状態よりも効率良く動く(効率良く代謝できる)ようになります。現在、酵素を使った食品や医薬品、健康食品、日用品などの製品は多数、市場に出回っていますが、「G-body」の仕組みを人工的に再現して分子を意図的に集合させることができると、今まで以上にものづくりが効率良くできるようになると考えられます。ものづくりが効率良くできるようになると、生産に必要なエネルギーの省エネ化にもつながるでしょうし、環境負荷低減にも貢献するようになるのではないでしょうか。

また、がん細胞は、低酸素になると代謝が大きく変わる(がん細胞が転移しやすくなる)ことがわかっています。ところが、具体的に細胞の中の何が変わると代謝が変わるのかについては解明されていないところが多くあります。そこで、「G-body」の研究を活かして、製薬会社との協働で創薬にも取り組んでいます。製品化されて世に出るまでに何年もかかる研究ですが、プレッシャーに負けないように、平常心を心がけて社会に貢献するための研究に取り組みたいと思っています。

世界初の「G-body」を報告するきっかけについて教えてください。

三浦夏子さん2

「G-body」ついて語るには、私が京都大学 大学院農学研究科に在籍していた頃に遡る必要があります。2009年頃、研究者の間で「細胞の中にあるはずのタンパク質が細胞の外に出てきている」と言われ始めていました。細胞の外に出てきていたタンパク質は、細胞の中で代謝を担う原動力をつくり出す働きをしている解糖系酵素といわれる分子で、細胞の外に出ることはないといわれていました。「外に出ない」とされていたのは、「細胞の中でなければエネルギーをつくり出せないから」と考えられていたからです。ところが、同時期に、その分子は代謝だけでなく、外に出て他の細胞に働きかけて、さまざまな働きをするとも報告されました。ここまでは解明されたのですが、分子がどのようにして細胞の外に出てきているのかについては解明されていませんでした。これを解明すれば世界初になるといわれており、私は「誰もやっていないことをしたい」と考えました。

実験は、分子を蛍光で標識して、着色された分子が細胞の外に出て来る様子を可視化して経路を突き止めようと思いました。そこまでは良かったのですが、思うような結果が出ず、毎日、長時間研究室に閉じこもる日々が続きました。あるとき疲れ果てて片付ける気力がなくなり、その日の実験に使用していたものを放置して帰宅しました。翌日、研究室に行き、いつも通りに顕微鏡を覗きました。すると、着色した分子が細胞の中でギュッと集まっており、「この現象はなんだろう」と思いました。

そこで、分子が細胞の外に出る経路を突き止めてその現象を解明する実験から方向転換をして、分子はどのような条件で集まるのかを解明することにしました。実はここからも苦難が続き、約3年後に低酸素状態になれば細胞内に散らばっている分子が集まることを突き止めました。

低酸素状態とは、酸素が約1%になった状態と考えてください。「G-body」とは、Glycolytic bodyの略で、「低酸素下で形成される代謝酵素集合体」という意味です。この名称はアメリカのグループが付けてくれました。現在、なぜ分子は低酸素下で集合するのかについて調べているところです。

この研究で、最も苦労したことを教えてください。

三浦 夏子さん

先ほど、約3年がかりで分子がどのような環境で集合するのかを突き止めたと申し上げましたが、この実験が最も大変でした。実験は、京都大学農学研究科応用生命科学専攻生体高分子化学研究室で行っていたのですが、突き止めるまでが約3年、論文完成までは約5年かかりました。植田充美教授のサポートがなければできなかったと思います。

また、世界で誰もやっていないことをする、世界で初めて解明するということは道なき道を歩くことですから、自分が研究していることが正しいのかどうかを判断する基準がありません。特に最初の3年間は「私が顕微鏡で見ている分子の集合体は他の人にも見えるのか」など、不安になったこともありました。代謝や低酸素を研究されている先生方を「これは何でしょうか?」と質問攻めにしていたほどです。その後、アメリカのグループが「G-body」というスマートな名前を付けてくださってホッとしたといいますか、苦労が吹き飛んだ気がしました。

三浦夏子さん3
インタビュアー

絶滅の危機に瀕しているサンゴを救うための研究にも取り組んでおられるそうですね。

三浦 夏子さん

2017年から取り組んでいる「サンゴ共在細菌」の研究のことですね。私の出身の京大研究室の教授や院生の方たちがサンゴの研究に取り組んでいて「このままだとサンゴが絶滅する。サンゴを守るために一緒にやりましょう」と誘われたのがきっかけです。サンゴに関しては生態学や形態学の研究者は多いのですが、微生物でサンゴを守るという観点での研究は、当時はほとんどなされていませんでした。「世界初」「まだ誰もやっていないこと」に興味を持つ私ですから、二つ返事で取り組むことにしました。

「サンゴ共在細菌」の研究についてお話しします。まず、サンゴを守る細菌をサンゴ自身が飼っている(共存している)のではないかという仮説を立てました。そして、サンゴから細菌を取って調べてみたところ、病気を防ぐ菌が出てきたため、その菌をサンゴに与えると病気に強いサンゴができるという仮説を立てて、実証実験をしています。

共在細菌は、海水とサンゴから採取した粘液やサンゴの一部をすりつぶしたものを培地の上にまいておくと細菌が出て来ます。その細菌の中から病原菌を殺す働きをする細菌を取って集めます。細菌がどのような働きをするのかは、ゲノムの配列から情報を読み取ることでわかります。

三浦先生が、このような研究に興味を持ったきっかけを教えてください。また、学部生時代はどのような学生だったのですか?

三浦夏子さん4

もともと農学分野に進もうと考えていたのではありません。中学校から大学までの一貫校に在籍していたので、中高は部活(剣道部)に打ち込んでいました。高校生になってしばらくした頃、親から学費を考えて国公立大学に進んではどうかと言われました。そのまま系列大学に進学し、部活動も続けようと考えていたので驚いたのですが…。仕方なく、大学を探すために新聞を読んでいたら、京大農学部が唐辛子の成分から食べて、運動するだけで痩せる効果が期待できる化合物を発見したという記事を見つけました。高校生女子にとって「食べて運動するだけで痩せる」というのはかなりキャッチーです。京大農学部に進学すれば、そんな夢のようなものが創り出せるのかと考えて受験を決意しました。今、考えると可笑しいのですが、「ダイエットに効果的なものを開発したら自分は無料で使える」と本気で考えていて、それが受験勉強のモチベーションになりました。

入学してから2年間は、ストリートダンスのサークルに入って活動したり、コミュニケーション力を付けるためにパン屋さんでアルバイトをしたりしていて、どちらかというと勉強は二の次という生活をしていました。4年生で学生実験が始まり、研究室見学をしたときに「やっと念願の研究ができる」と思いました。その研究室の先生が微生物の研究者だったことが微生物研究の世界に踏み込んだきっかけです。

先生は、微生物研究の話やノーベル賞のことなどを話してくださいました。当時の私にとっては初めて聞くことばかりで、すぐに理解できるほど簡単な内容ではなかったのですが、未知の世界に触れる面白さにあふれていました。

また、研究者になったのは、学部生時代に取り組んでいた研究で成果が出て、論文作成や学会で忙しくなって就活をする時間もなく、どうしようと考えていたとき、その先生が「好きなことをやって生活できるなんて、研究者って最高やろ」とおしゃってくださったことがきっかけです。当時も今も、時代の流れに触れているという感覚があり、ワクワクしながら研究に取り組んでいます。

研究者として大切にしていることや心がけておられることを教えてください。

「実験が教えてくれる」ということを大切にしています。例えば、マウスの実験を例に挙げると「実験結果は研究者の願いの通りになりがち」と言われるのですが、それは、早く結果を出したいという焦る気持ちに負けてしまい、ちょっとした差に目をつむってしまうからです。「人間は見たいものを見る。聞きたいことを聞く」といわれますが、研究者はそうであってはいけない。そこにある事実を捕まえきらなければいけないのです。プレッシャーに勝ち、妥協しないことを心がけています。

三浦夏子さん5

【取材日:2020年2月18日】
【取材:広報課】

※所属は取材当時