※本記事は、大阪府立大学Webマガジン「ミチテイク・プラス」(2019年7月23日公開記事)から転載しています。掲載されている情報は公開当時のものです。
生命環境科学域 応用生命科学類 生命機能化学課程の生体成分実験を取材しました。
この実験は3年生を受講対象とし、生命機能化学課程において行われる実験の基礎となる生体分子の抽出法・定量法・活性測定法・電気泳動法・遺伝子取り扱い法などの基本原理と操作を習得することを目的としています。
取材当日の授業は、第13回「生体試料からのタンパク質溶液の調製(タンパク質定量、アクリルアミドゲルの調製)」。担当教員は原田直樹准教授です。
まずはタンパク質定量。原田先生より実験について説明が行われました。
前回の授業で調製した肝臓ホモジネート溶液(細胞内小器官の比重や大きさの違いを利用して、遠心分離により細胞内小器官を分画したもの)を試料サンプル溶液として用います。濃度既知の標準タンパク質とサンプルをクーマシーブリリアントブルー(CBB)溶液と反応させて分光光度計で吸光度を測定後、標準タンパク質との比較により濃度を算出します。
テキストに目を通しながら、先生の言葉に黙って耳を傾ける学生たち。説明が終わると各自の持ち場に戻り、一斉に実験を開始しました。
【実験内容】
- 全細胞抽出液、核・ミトコンドリア画分、ミトコンドリアを除く細胞質画分、それぞれの試料タンパク質の濃度測定を行う。
- 試験管に標準タンパク質溶液(0、2、4、6、8、10 µg/10 µl)、または測定可能な濃度にイオン交換水で希釈した試料サンプル溶液(各10 µg)をそれぞれの試験管に入れ、ブラッドフォード試薬(CBB溶液)を2.0 ml加え、ボルテックスで撹拌(試料タンパク質は3点計測し平均値を求める)。
- 10分間室温で静置した後に、分光光度計で測定(595 nm)。試料の粗タンパク質量の濃度を算出する。
実験を始める前に作業分担をきっちり行い、それぞれの役割を相談しながら進めて行く学生たち。目に付くのは、実験道具を扱う手際の良さでした。
【原田先生コメント】
3年生になると技術が向上し、実験も上手にできているのがよく判ります。特に本課程に関しては、2~3年生では午後はほとんど実習なので、実験技術をどんどん習得していきます。
私が担当している実習はタンパク質が中心なのですが、取り扱う上での注意点や特性を、どのような原理・方法でアプローチすれば、どのような事が解るのか、という事をきちんと理解して欲しいですね。
実験開始時はピリッとした空気が漂っていた研究室でしたが、時間が経つにつれ、適度に肩の力が抜けてリラックスした雰囲気に。でも実験にはしっかり向き合い、同じ作業を繰り返し、黙々と行います。
測定が終わった班からホワイトボードに測定結果を記入して、このタンパク質定量は終了。この後、電気泳動(SDS-PAGE)用のサンプルを調製しました。
実験の後片付けの合間に、学生にお話を伺いました。
(女子学生)
この分野に進んだきっかけは生物が好きだったから。将来、検査技師になりたいと思っていたんですけど、開発にも興味が出てきて、高校2年生の時に担任の先生から勧められて府大に来ました。今後は薬品系か食品系に進みたいです。
(男子学生)
高校生の頃から、研究開発に携わり社会に貢献したいと思っていました。化学系の企業に研究開発として入社できればいいなと思っています。
(原田先生)
生物の仕組みを知り、生命維持の機構を理解すること。そのなかで人々の生活に役に立つものをピックアップして開発し、社会に還元することがこの学問の目的です。
(男子学生)
農学系の研究をしたくてこの分野に来ました。この授業を通して得られる事は、今後、研究室でやるべき事を練習できるから、自分のためになると思い、取り組んでいます。
昨日、酵素の活性を測定したのですが、例えば洗剤や食品製造用の酵素の開発などに、ここで学んだ知識が応用できます。生物の基本的な仕組みを学ぶ基礎的な部分と、それを社会に還元する応用的な部分。基礎と応用の両方を学べるのがこの学問の特徴であり、楽しみの1つだと思います。
タンパク質定量が終了した班から、引き続きSDS-PAGEで使用するアクリルアミドゲルの作製に取り掛かります。学生へのレクチャーはTA(ティーチングアシスタント)が担当。実際にゲル版を組み立てながら丁寧に説明していきます。
【ゲル作製】
- ゲル作製用ガラス板セットのゲルに触れる面をイオン交換水でよく拭い、さらにエタノールでよく拭く。
- ガスケットをエタノールでよく拭い、凹型ガラス板に固定されているスペーサーの外側にセットする。
- 四角形のガラス板をかぶせ、スパテルの平らな部分を用いてガラス板とガスケットを密着させた後に、2枚のガラス板の両端をクリップで固定する。
- 7.5 mlの分離用ゲル溶液を調製した後に50 μlの7%APS、8 μlのTEMEDを加え、しっかりと混合した後、分離用ゲル溶液をガラス板の間に流し込む。この上に濃縮用ゲル溶液をのせることを考慮し、分離用ゲル溶液の量はサンプルコームの先端より1~1.5 cmほど下までとする。
- ガラス板を垂直に立て、左右両端から100 μlずつ計200 μlのイオン交換水をゆっくりと流し込み、ゲル溶液の上に重層する。分離ゲル溶液がゲル化するまで静置する(約30分間)
ゲルの出来不出来が後日行う電気泳動の結果に影響を及ぼすため、ゲル板の組み立てとゲルの作製は慎重に。素手でゲルに接する面を触らない、分離用ゲル溶液は泡立てないようガラス板に流し込む、などの注意点を守りながら、各自デリケートな作業に集中します。分離ゲル溶液がゲル化するまで約30分、そのまま静置してこの日の作業は終了しました。
(原田先生)
課程学生の7割は大学院に進学し、博士前期課程修了後に、ほとんどの学生が就職します。就職先として最も多いのは食品業界の研究・開発職。それに化粧品や化学系・製薬系企業ですね。でも博士後期課程で博士号を取得して、世界で活躍する卒業生がどんどん出てきて欲しいと願っています。
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「実験になると、みんな知恵を出しあいながら協力してやっていますよ」と原田先生がおっしゃったように、自分たちが下した判断が正解かどうか仲間たちと相談し、分からなければ先生やTAの意見に耳を傾ける。学生たちのそういった真摯な姿勢は、将来に役立つのだと頼もしく感じました。
将来への糧となるよう、1つ1つの学びを大切に、これからも焦らず取り組んでください!
【取材日:2019 年6月21日】 ※所属等は取材当時