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2024年11月1日
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川崎重工業株式会社への水素事業に関する経営戦略提案を実施/商学部 松尾ゼミ
商学部の松尾 健治准教授のゼミでは、2024年9月19日に川崎重工業株式会社の役員らを前に、同社の水素事業に関する課題分析と経営戦略の提案のプレゼンテーションを実施しました。参加者からは、「公表されている情報だけでここまでの分析と提案ができるとは素晴らしい」「社内での経営戦略検討の際に、活用させていただきたい」など、非常に高い評価を受けました。
今回は松尾先生と、ゼミ生の瀬戸 優心(せと ゆうみ)さん(商学部3年)、橋本 光希(はしもと こうき)さん(商学部3年)にゼミでの活動内容についてお話を聞きました。
- インタビュアー
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松尾先生のご専門について教えてください。
- 松尾先生
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経営管理論が専門で、主に組織の衰退や失敗についての事例研究を行っています。注目されやすい成功ではなく、衰退や失敗について、事例研究を通じて詳細な因果メカニズムを解明することで、組織や人間行動のリアリティを理解し、さまざまな問題を解決する糸口を得られればと考えています。
大学を卒業してから、損害保険会社で働いていたのですが、どうしたらもっと良い会社にできるだろうと思って、働きながら大学院に通いMBA(経営学修士)を取得しました。その後、コンサルティング会社に転職したのですが、アカデミックな研究にも価値と面白さを感じていたことから、働きながら博士課程に進み、修了してから大学の教員になりました。昨年2023年4月から本学に着任しています。- インタビュアー
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どのようなゼミなのか教えてください。
- 松尾先生
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テーマは「ブラック・スワン」の探求です。「ブラック・スワン」(「黒い白鳥」)とは、既存の常識では「ありえない」事象や存在を指す表現です。例えば、ヤマト運輸が創始した「宅急便」です。これは「個人向けの宅配は手間ばかりかかって儲からない」という当時の業界の常識からすれば「ありえない」事業でしたが、「宅急便」は大きな成功をおさめ、新しい市場を生み出しました。
こういった「ブラック・スワン」の事例研究では事象のメカニズムを詳細に明らかにするために、実際に企業などを訪問して、インタビュー、観察、資料収集などを行います。統計的な手法では見過ごされてしまうものを見出すことを目指しています。
現在、3年生のゼミには7人が所属しており、2つのグループに分かれて事例研究に取り組んでいます。研究成果は毎年冬に開催される「三大学学生研究討論会(通称:三商大ゼミ討論会)」注で発表することを目標にしています。注:「三大学学生研究討論会(通称:三商大ゼミ討論会)」とは、三商大と呼ばれる大阪公立大学(旧大阪商科大学)、一橋大学(旧東京商科大学)、神戸大学(旧神戸商業大学)において、毎年開催されているゼミ対抗の討論会。1951年に開始された歴史ある行事で、3年生の専門ゼミナールにおいて数カ月間の準備を経て討論会に臨み、対戦相手のゼミと討論を行います。
- 瀬戸さん
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私たちのグループでは、大阪にある「湯本電機株式会社」について調べています。創業80年以上の歴史ある部品メーカーでありながら、メタバースや民泊などさまざまな新規事業を展開しています。部品メーカーなのに、どうしてこんなに本業と関係ない事業をたくさんしているのだろうと不思議に思って、8月に会社を訪問してインタビューさせてもらいました。
- 橋本さん
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僕たちのグループは、天然エビを取り扱っている「株式会社パプアニューギニア海産」という会社の事例研究をしています。この会社は、「好きな日に働ける」「嫌いな仕事はやってはいけない」というユニークな働き方で知られています。どうして経営が成り立っているのかが気になって、実際に訪問していろいろ話を伺いました。
- インタビュアー
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今回の川崎重工業株式会社へのプレゼンテーションはどのようなきっかけで行うことになったのでしょうか。
- 松尾先生
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実は、川崎重工さんの役員にMBA時代の同級生で懇意にしている方がいらっしゃるのですが、「うちの会社での一番のホットトピックスだし、一番悩んでいる部分でもある水素事業について、松尾ゼミで課題を分析し、成功に導くための経営戦略を提案してもらえないか」というお話をいただいたのです。いま、世界的に水素のクリーンエネルギーとしての利活用が急速に進みつつあります。川崎重工さんは水素の貯蔵・運搬や航空機向けの水素エンジンに関する技術・製品開発・事業のパイオニア・リーダ-的存在です。とはいえ、社会における水素の利活用は発展途上にあり、同社のみならず多くの企業にとって水素に関する事業化や市場創造は手探りの状況です。川崎重工さんの水素事業に関する経営戦略を提案することは、経営学の知見を生かして同社ひいては社会の発展に貢献できる貴重な産学連携の機会になると考え、取り組ませていただくこととしました。
- インタビュアー
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提案資料を拝見しましたが、かなりの大作ですよね。まとめるのは大変だったんじゃないですか。
- 瀬戸さん
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そうですね、先生からは「ストーリーを作らないと伝わらない」といつも言われていて、1つのストーリーにするのが難しかったですね。
川崎重工さんからは事前に一切情報をもらっていないんです。インターネットや雑誌、書籍で情報を収集しました。そして水素事業について、「つくる」「ためる・はこぶ」「つかう」という3つの段階に分類して現状と課題を分析し、ゲームアプローチによる各段階での優位を長期的に保つための案を提案しました。
週1回3時間ずつミーティングして、夏休みには2日間合宿もしました。まあ、合宿2日目は京都観光でしたけど。- 橋本さん
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合宿は、市村 陽亮先生のマネジメント学類演習との合同で行って、そこで中間発表をしたんです。そうしたら、市村ゼミのメンバーから、いろいろと指摘を受けて、それが確かにごもっとも、という指摘でした。私たちには見えていなかった部分について指摘してもらったので、改善するのにとても役立ちました。どうしても、自分たちだけで考えていると視野が狭くなって、決めつけてしまうことがあると気づかせてもらいました。
- インタビュアー
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川崎重工業株式会社でプレゼンテーションをした感想はいかがですか。
- 瀬戸さん
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川崎重工さんの方が10人くらいと、同時に参加していた関西大学の学生さんたちが15人くらいいましたから、緊張もしたんですけど、伝えたいことは伝えられたと思います。メンバーそれぞれが責任感を持って資料を作り、社会人に向けて、自分達も学生ではなく社会人として発表するという意識を持って挑んだのはとても貴重な経験だったと思います。
- 橋本さん
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関西大学の方からは、「どうしたらこんなプレゼンができるんですか?」と驚かれて、顔には出しませんでしたけど、心の中でガッツポーズしました。実際に働かれている方と対等に話すということは、これだけの準備をしなければいけないんだという厳しさも実感しました。
- 松尾先生
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川崎重工さんの皆さんから、「よくここまで調べて質の高い提案をされましたね」と高く評価いただけました。社内での事業戦略策定に活用したいというコメントも頂き、短い期間で本当にがんばってくれましたね。単に授業の単位が取れる程度でやればいいという姿勢は社会に出たときに通用しない。周りをびっくりさせるぐらいのものを作る、そのために努力することが、評価や成長につながるということだと思います。ゼミ生たちは、この半年くらいで、経営に関する知識だけでなく、論理的思考力の土台がインストールできたと思います。問題解決型学習と言いますが、思い付きでいきなり何らかの施策(How)を挙げるだけではだめです。まず、目指すべき姿と現状のギャップから問題の全体的な傾向(What)を把握し、その中で重要な問題の箇所(Where)を特定し、問題箇所の原因や懸念点(Why)を明らかにしたうえで、原因や懸念点を克服するための解決策(How)を導き出すことが必要です。
- インタビュアー
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これから目指すことについて教えてください。
- 橋本さん
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先生からよく「それは本当に面白いのか」と聞かれます。やっぱり自分がどういう研究をするかとか、どんな提案をするかというときに、面白くないと自分自身も進められないし、聞き手や読み手も聞いたり読んだりする気にならないと思いますので、そこは大事にしたいです。今はインタビューを受けてくれそうということもあって中小企業について研究していますが、いずれもっと大きな企業の事例研究をしたいと思います。
- 瀬戸さん
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先生は、問いを立てるときにどこに不思議があるのかということを重視されています。何気なく日常生活を送っていると不思議に思うこともなく過ごしてしまうんですが、よく考えたら不思議だなってことは結構あって、そういうことを突き詰めていくのは大切かなと思います。私は、マーケティングに興味があってこのゼミに入ったんですけど、今回の川崎重工さんへの提案を通して、管理とかマーケティング以外にもいろいろなことが複雑に絡み合っていることを感じて、マーケティングだけでなく他のことも学びたいと思いました。興味は限定しない方がいいと思います。好きじゃないことも1回やってみると発見があるんじゃないかな。
- 松尾先生
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今回の川崎重工さんへの提案などのように産学連携で、企業や社会のよりよい発展につながるような貢献をしていきたいですね。ゼミ生それぞれが卒業して社会人になったあとも、大学時代に培った経営学の知識や思考力を活かして、よりよい社会を創ることに貢献して欲しいと思います。ゼミ生と卒業生との縦の交流がゼミ活動に生かせるようにもしていけたらと考えています。