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2024年11月12日
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もっと便利に!学内システムの困り事は自分たちが解決する/情報戦略課 学生プロジェクトチーム「TryAngle」
2023年8月、学生スタッフを中心としたシステム開発チーム「TryAngle」(トライアングル)が発足しました。現行の学内システムで不足している部分やニーズについて、それらを補完するシステムを利用者である学生自身が企画・提案・調整・開発。現行システムの不足部分を補いつつ利用者満足度の向上を目的とする、情報戦略課と有志学生らによるプロジェクト(以下「PT」)です。チーム名の由来は、教員・職員・学生の三者協働を意味する接頭辞「Tri」に挑戦を意味する「Try」でダブルミーニングとし、それぞれの視点を意味する「Angle」を組み合わせました。
同PTは、利用当事者でもある学生スタッフの高度なITスキルを用いて大学側と学生側の双方の課題を同時に解決するだけでなく、教職員と協働しながら学生がシステム開発の実体験を積めるDX事業として位置付けています。PT全体の管理を大学情報基盤センターが担い、実務を情報戦略課が担当しています。TryAngleメンバーの学生と情報戦略課の職員に話をうかがい、開発チーム発足の経緯から現在取り組んでいる活動、今後の目標などについて語っていただきました。
参加者
学生
- 大井 智弘さん(工学部 情報工学科3年)
- 田上 満喜さん(工学部 航空宇宙工学科3年)
職員
- 春口 昌彦(情報戦略課長)
- 中村 政司(情報戦略課 係員)
- ※所属・学年は取材当時
<これまで開発および提案、実装されたシステム>
○シラバス検索システム「授業カタログ」の開発(2024年1月19日公開)
○二要素管理認証システムのセキュリティと利便性改善の提案(実装済)
○利用者検索システムの開発(公開済)
○セキュリティを向上させた全学情報連携基盤の開発(提案と構築の準備中)
――まずはTryAngleのメンバー構成や勤務内容などから教えてください。
- 春口 昌彦 課長(以下、春口)
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TryAngleのメンバーは大井智弘さんと田上満喜さんの2人で、学内向けのシステム開発に取り組んでもらっています。彼ら以外に情報戦略課で雇用している学生スタッフ(システムスタッフなど)にも協力してもらい、開発を進めています。TryAngleとしての2人の勤務時間は週8時間。1日4時間、週2日間の出勤です。
――TryAngleの学生スタッフとして参加した経緯を教えてください。
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大井 智弘さん(以下、大井)-
シラバス検索システム「授業カタログ」の原型になる「裏バス」というシステムを個人で制作して公開していましたが、大学内で裏バスの存在が広がり、春口課長からTwitter(現X)を通じて最初は「警告」のDMが送られてきました。その後、課長経由で大学情報基盤センター長の阿多信吾教授(以下、阿多先生)から連絡いただき、情報戦略課での学生スタッフとして勤務することを提案されました。その時は「授業カタログ」のようなシステムを本当に作れるのか半信半疑でしたが、やってみようと思いました。それが1年の3月頃でした。
▼裏バス製作から授業カタログ公開に至る経緯は、大井さんのブログへ
- 田上 満喜さん(以下、田上)
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2年の春頃、学内掲示板で見つけた情報戦略課の学生スタッフ募集に応募し、システムスタッフとして採用されました。私の専攻は航空宇宙工学ですが、もともと情報系にも興味があり、趣味としてプログラミングに取り組みたいと思っていた時期でもありました。それに大学で勤務することは、あまりできない貴重な経験だと思ったので、まずは応募してみたというのが理由です。そこから半年後に実施されたTryAngleのメンバー募集に応募し、採用されました。
春口-
TryAngleでの業務は高度な技術が求められます。田上さんを採用したのは、技術面、提案力に優れていたのはもちろんですが、何より彼のやる気が見えたからです。
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――TryAngleでの仕事で大変に感じることを教えてください。
田上-
全て大変です(笑)。そもそも大学という組織内でのシステム開発がとても難しいです。例えば運用ポリシーやセキュリティ面。ポータルサイトに掲載されている情報であっても、ポリシー的にTryAngleが作成するシステム内では掲載できないケースもありました。いち学生ではなく大学組織の一員として他部署とやり取りする大変さは今現在でも感じます。
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――仕事でのやりがいを教えてください。
大井-
やりがいはめちゃくちゃあります! やはり公開したサービスを多くの人に使ってもらえるというのがとてもうれしいです。「授業カタログ」は1カ月で約4,000人、8月末に公開した「利用者検索システム」も約1,500人に利用していただいています。友人たちも「授業カタログ、普段から使ってるよ」と応援してくれます。直接感想が聞けると、やっぱりうれしいですね。
田上-
私も同じで、ユーザーから意見を頂くのが一番うれしいです。さらには、意見を言わなくても使ってくれているという事実自体も好きです。意見がないということは、システム自体を上手に導入できたと解釈できるので、そういうところでもやりがいを感じてます。
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――TryAngleではどのように仕事の共有を行っていますか?
春口-
TryAngleだけではなく、システムスタッフも集めたミーティングは定期的に行っています。私たちも同じ部屋に在室していますので、気軽にコミュニケーションを取りながら進めています。技術的な相談に関しては、中村さんが担当してくれています。
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――TryAngleが挑む、DX化への課題はどのように見つけていますか?
春口-
授業カタログはまさに学生視点で生まれた困り事を解決したシステムでした。大学側が用意したシステムで感じる不便さを自分たちの体験の中で見つけて、それを実現しようとしてくれたのだと思います。
職員側の立場でお話すると、職員目線の困り事を解決するシステムが構築できないかという相談をTryAngleの2人に伝え、学生視点でさまざまなアイデアを提案してもらい、実現化に向けて進めています。
今回の利用者検索システムも、要望はこちらから伝えましたが、OutlookやTeamsを自動的に起動し、そこから直接メール送信を可能にするという便利な機能は、彼らのアイデアならではです。
田上-
我々学生メンバー2人で日常の仕事を見渡した上で、DXの種になるような課題を抽出します。例えば「たぶん日程調整が日常の仕事の数割を占めるくらい負担だよね。じゃあそこを変えたらいいんじゃないかな」というイメージです。
もうひとつは、春口課長や中村さんがポロっと言った困りごとの解決を実現するケースです。アイデアをいただいた後、私たちで肉付けして考えを具体化します。その後、関係部署の担当教職員とのアポイントを調整していただき実際にヒアリングします。そこから考えをブラッシュアップし、企画書作成までさらに煮詰めます。
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――春口課長や中村さんから無茶ぶりされることはありますか?
大井-
いや、全然(笑)。僕たちの方が無茶というか、ポリシー的にちょっと…みたいなことが多いです(苦笑)。結構やりすぎる面があるので「それはやりすぎや、ちょっと待ってくれ」とストップされることもあります。
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――「やりすぎ」というのは大学運用ルールの範疇で、という意味合いでしょうか。
- 中村 政司 さん(以下、中村)
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そうです。ただ最初の段階で止めてしまうと発想自体がそこから広がらなくなります。基本的には何を構想しても良いのですが、実行するか/できるかどうかはまた別の話なので、毎回「できる、できない」を大学側で仕分けています。
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――中村さんが担う技術的サポートとは、具体的にどういうことですか?
中村-
学内システムを彼らが使用すること自体申請が必要なので、その事務作業は私が行っています。また、現在の学内システムの仕組みをよく知っているのは大学側ですので、彼らがシステムを作る上で必要となる知識や情報を提供しています。彼らはすごく優秀で、休日でも質問が届きますが、レベルが高すぎるんです。大学で取り組むには早すぎるような技術を取り入れようと構想するので、そこには一定のブレーキをかけています。
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大井-
中村さんはめちゃめちゃ心強い存在です。例えばIT関連ニュースのことで質問すると、解説はもちろん、その裏側まで考察して話してくれます。
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春口-
彼らの仕事はとても速いです。しかしそれを実現するために、大学側の調整に時間がかかることもあります。そこで彼らの足を引っ張ってる部分はあるので、職員側がもう少しスピーディに取り組む必要があると思っています。
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――お2人がTryAngleでの経験で得たものを教えてください。
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田上-
得たものしかないです!(笑) まずは組織での働き方です。組織としてやってはいけないこと、やった方がいいことなどポリシーの話ですが、一般的なアルバイトでは学べない視座や経験が身についたと思っています。
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大井-
企画提案や変更申請を申し出る際、誰に確認をし、誰に承認をとらないといけないかなど、組織の中で物事を進める手順を学べた点です。学生の立場でこういった経験ができたことは大きいと思っています。
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――お互いのことをどう思いますか? どんな存在ですか?
大井-
田上君は僕より圧倒的にすごいです。体力もあるし、勉強もできるし。
田上-
私は根気で生きるタイプですけど、技術面では大井君に全然敵わないので。
大井-
いやいやいやいや(笑)。
田上-
彼からは学ぶこともたくさんあります。今2人でいい感じのコンビになっているなと思っています。大井君はめいっぱいやろうとするタイプで、自分はちょっと抑え気味でやるタイプ。2人が一緒にやるとちょうどいいバランスになっているかなと(笑)
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――現在、開発中のシステムはありますか?
大井-
「パスワード共有ツール」といって、もともと阿多先生が大阪市立大学時代に作られたシステムです。大阪市立大学のネットワークのシステムと綿密に連携しているため、大阪公立大学のシステムと連携できていないという現状課題があります。そのシステムを新しく作り直し、大阪公立大学で運用できるものを作ろうとしています。
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――お2人は3年生ですが、今後の進路は決めていますか?
田上-
2人とも大学院に進学するつもりです。私の所属する航空宇宙工学科では4年次から研究を始めるのですが、とある先生とお話が合い、叶えばその研究室に進みたいと思っています。大阪公立大学に在籍しておきたいというのと、TryAngleの仕事が好きだからというのも理由です。
大井-
僕は阿多先生の研究室に行きます。将来的に森之宮キャンパスでスマートキャンパスなどの研究に取り組みたいです。TryAngleでの活動もぜひ継続したいです。
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――大学院修了(卒業)後のビジョンはお持ちですか?
田上-
まだぼんやりしています。専攻が航空宇宙工学ですし飛行機が好きですので、そこに関連する道に進みたいですが、情報系も趣味ですし、両方がミックスした分野に進めたらいいなと思ってもいます。実は今、大井君と起業の準備を進めていて、何かできればいいなと思っていますが、まだちょっとぼんやりしていますね
大井-
起業の話にも関連するのですが、僕としては自分の技術力を使って、もっと暮らしやすい社会の実現をめざしたいです。例えば仕事がちょっと楽になった、とかそういうシステムをどんどん開発したいです。
田上-
TryAngleでの活動を通して、人々の生活に役立てるような仕事をしたいという意識が芽生えました。先ほど大井君が話したように、人々が暮らしやすい社会の実現のために、行政機関向けの情報システム改善に取り組もうと現在準備を進めています。会社向けのDXももちろん大事ですが、住民の生活に密接な部署がある行政機関や公共団体を専門としたDXの取り組みを模索しています。
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――TryAngleを立ち上げる以前、情報戦略課でのDX推進の位置づけはどのようなものでしたか?
春口-
「DX」は定義がとても難しいです。法人/大学の中でもDXを進めるべきという声は各所から挙がりますが、具体的にはあまり進んでいません。DX=システムと捉えられがちですが、システムはあくまでも手段であって、「どんな在り方で」といったもっと前の段階が大きいです。そういった中、しかし何かを進めないといけないという状況で、たまたま「裏バス」を認知するというきっかけがありました。
情報戦略課の課内業務を手伝ってくれる学生スタッフはこれまでも雇用していましたが、新たに全学が使えるシステム開発に取り組もうということで、TryAngleを立ち上げた次第です。
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――TryAngleとして、今後の展望や課題をお聞かせください。
大井-
まだ草案が通ったくらいの状態ですが、日程調整システムを作りたいと思っています。学内であらゆる会議や委員会が行われる際、これまで日程調整をTeamsでチャットを1つずつ送信したり、メールで問い合わせたりという現状がありました。出席者が50人を超えてくると調整だけに時間がとられてしまうという問題があります。それを改善するためのシステムを作り、大学のOutlookなどのスケジュールと自動連携して、 例えば「この日どうですか?」というイメージでシステムが空いてる日を自動提案してくれるとか、そういう機能を搭載した日程調整システムを作りたいです。今は実際にどのような機能が必要なのか調査している段階です。
春口-
彼らにはいろいろ作ってもらっていますが、大学が正式にシステムとして運用していこうと思うと、やはり絶対に止まってはいけないということや、システムで表示された情報に誤りがあってはいけないので、正確性を厳しく求められます。そのあたりが今後の課題だと認識しています。
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――学生を巻き込むPTの意義をどのようにお考えですか?
春口-
先ほどの話にもありましたが、私たち職員だけでできることは限られています。大学には高いスキルを持ち、私たちのような仕事に取り組みたい学生さんがいるはずです。彼らと協力すれば、学生がやりたいこともできるし、私たちが実現したいこともできるという両方Win-Winの関係での取り組みが可能だと思っています。そういった意味で、今後もTryAngleでの活動は継続していきたいと思ってます。何万人もの教職員が使用するシステムを個人で作れる経験はなかなか得られません。その中で評価されたり、意見をいただいたりを経験できることは学生にとっても貴重な経験ですので、ぜひ切磋琢磨しながら取り組んでほしいと願っています。
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――改めてTryAngleでの仕事の魅力について教えてください。
大井-
自分が作ったシステムを何万人もの教職員に使ってもらい、フィードバックを得られるというのはすごく大きな経験です。情報戦略課の職員さんも同じ部屋にいるため修正や改善点もすぐに指示してもらえます。そういった意味で小回りが利く開発ができるのも魅力です。Outlookの予定表を見て「予定入ってへんな」っていうのを確認するとすぐ聞きに行けます。「こういうのやりたいんですけど」とか「こういう機能つけたいんですけど」という確認がすぐに取れるのは、とてもありがたいです。
田上-
大学という大きい組織ですけれど、親密に話を聞いてくださいますし、開発自体もやりたいようにできるところがすごくいいかなと思います。
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――最後に読んでくださった皆さんにメッセージをお願いします。
大井-
学生の皆さんにはぜひ「授業カタログ」を使ってほしいですし、教職員の方には「利用者検索システム」を利用してほしいです。これからも便利なシステムを開発できるよう頑張ります。
田上-
私たちの取り組みに興味を持ってもらえて、情報分野に興味のある学生さんが入ってくれればうれしいです。待っています!
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