記事
2025年4月1日
- 教員
- 理学
【特別対談】櫻木弘之×藤井俊博 ~大阪公立大学、世界の知を惹きつける場所へ~
共に理学分野の研究に長年取り組んできた研究者である、櫻木弘之学長と藤井俊博准教授が、宇宙線研究の成果や研究成果の還元、大学の国際化について、語り合いました。
対談参加者
櫻木 弘之 学長
学位:理学博士(九州大学)
専門は原子核物理学
藤井 俊博 理学研究科 准教授/南部陽一郎物理学研究所 兼任研究員
学位:博士(理学)(大阪市立大学)
専門は宇宙物理学
観測史上最大級のエネルギーをもつ宇宙線(アマテラス粒子)を検出
研究成果を国際学術誌「Science」(2023年11月)に発表
※所属・役職は取材当時
あまてらす まだ観(み)ぬ宇宙(そら)の みちしるべ
-
- 櫻木 弘之学長(以下、櫻木)
-
藤井先生によるアマテラス粒子の発見、これは世界の宇宙線研究の歴史に刻まれる、非常に大きなインパクトを与える発見です。ご自身でも15年20年、本学の宇宙線研究の歴史から言えば70年にもわたり、先輩方が営々と積み重ねてきた地道な基礎研究の土台の上に、一つの大きな花が咲きました。
- 藤井 俊博准教授(以下、藤井)
-
ありがとうございます。宇宙線というものは、やはり地道に観測することで少しずつ明らかになっていくものですので、仰る通り、先人の方々が積み重ねられてきた長年の研究活動があって、今回の成果に結びついたと考えております。加えて、検出器の開発や運用、すべてがうまく動いたおかげでもあり、決して私一人の力ではないということをまず初めに強調しておきたいです。
あなたの周りにも、宇宙線
- 藤井
-
より多くの方に、このアマテラス粒子を知っていただけたら、宇宙線を身近に感じていただけたらと思い、実際の測定データを基にした科学イラストを描いていただきました。また、アマテラス粒子が持つエネルギーの大きさの例えとして「仮にこの粒子を1g集めることができれば地球を破壊しうる」と表現したものが広く伝わり、興味を持っていただけました。
- 櫻木
-
こういう基礎科学の分野は、面白さ、意義が理解されづらいものです。一方で自分たちの住む世界や宇宙がどうなっているのかには、皆さん大変興味があると思います。こういった基礎研究が自分たちの身の回りにどう繋がっているか、という事をわかりやすく伝えていくのはすごく大事だなと常々考えています。藤井先生のこのアプローチは素晴らしい。
-
-
宇宙について最も理解しがたいことは、宇宙が理解可能なことである(アインシュタイン)
- 櫻木
-
ノーベル賞を受賞する様な研究でも、日の目を見るまでには長い期間が必要です。結果が中々でないことも多い。また研究中にはどういう結果が出るか分からないケースもあると思います。そういったもどかしさの中でも、諦めずに研究を続ける藤井先生の情熱の根源をお聞きしたいです。
- 藤井
-
やはり、興味、楽しさに尽きると思います。宇宙というものは非常に遠いですが、地上で我々研究者たちが力を合わせれば、ほんの少しずつ分かっていくんですよね。非常に離れてもっとも遠い存在といっていい宇宙。地球上のちっぽけな我々生命体が力を合わせると、その広がった宇宙のことが少しずつ解明されていく、そこが面白いです。
また今回は国際共同研究に参加したので、さまざまな国の方と話す機会がありました。国も文化も違えども、宇宙に興味があるということが共通点。地上で宇宙に関する知識を付けたからこそ、共通の目標や考え方で一つになれる。科学研究は世界を繋ぐ重要な役目を担っていると思います。
-
-
分野や立場にとらわれず徹底的に議論する「コペンハーゲン精神(N・ボーア)」
- 藤井
-
国際共同研究の場だと、それぞれの方の文化は違うんですけども、宇宙への興味は共通で、科学を通じた一体感がありました。
また、一時在籍していたシカゴ大学では、研究者同士、時には著名な先生もやってきて、研究の事に限らずじっくりと話ができる機会が、大学のサポートで多く設けられていました。
そこで感じたのは自分の意見を持つことが大事だということ。そしてよく話し、よく聞く。分野や立場をこえてお互いに気付きが生まれて得るものが多いんです。 - 櫻木
-
私も海外経験がありますが、皆さん自分たちの歴史や文化をしっかり理解し、誇り高く堂々と話されていました。そして相手のこともちゃんと受け入れる。そうして、初めて国際人なのかなと当時感じたんですね。
自分たちが取り組んでいる研究の意味を伝えること。狭い物理学の中だけではなく、社会にとってどういう意味があるのかを発信することが大切だと学びました。そうして初めて、自分たちの研究が認知され価値が共有される。また同時に新たなイノベーションが生まれるきっかけになると思います。-
-
-
-
世界の「知」を惹きつける場所へ
-
-
- 藤井
-
私の研究室にも海外からの方がおられ、色々な文化の人たちが入り交じる意義を日々感じています。彼らはすでに日本語が堪能になりましたが、やはりやってくる時の障壁をできるだけ低くすることは重要だと思います。
- 櫻木
-
できるだけそういったバリアを下げるのは今後の大きな目標です。加えて、本学で勉強したい、研究したいと思ってもらうには、まず第一に研究のレベルが高いこと。同時に先程の、お互いに対話し認め合う土壌を育むことが大事かなと思います。日本、そしてこの大阪にも素晴らしいものがいっぱいあります。みんながそれを自分の言葉で発信できるようにしていくことが国際化の第一歩ではないでしょうか。
-
-
-
-
-
-
学問とは真実を巡る人間関係である(松本紘)
-
-
-
-
-
-
-
- 藤井
-
アマテラス粒子の報道をきっかけに、今まであまりお話したこともないような方々とのつながりが生まれました。芸術家の方とやり取りして絵画を描いていただいたのもその一つです。
芸術作品というものは我々が言葉を尽くすより遥かに伝わりやすいし、これを見た誰かが科学に興味をもってくれて、そこからまた理解を広げていってもらう。次世代の研究者の育成につながっていくことにもなると思います。
新しいことを知る時って、やはり楽しいじゃないですか。より社会とつながって、こういう学問の面白さを共に創り上げていけるような、そういう研究者に私自身もなりたいなと思っております。-
-
-
-
自由に、闊達に。社会と「共に創る」
- 櫻木
-
近年はどうしても短期的な成果を求められがちですが、真に社会の役に立つ成果を生み出すためには、地道な基礎研究をしっかりと支え積み重ねていくことが大事です。その過程で民間企業の方々と一緒に試行錯誤しながら共創していくこともあります。
また、そういった研究の意義や成果を、広く異分野の方々、市民の方々にもわかりやすく発信し共有していくことで大学と社会がつながって、そこからまた斬新なアイディアや可能性を見いだし、共創していく。
こういった事を大事にする大学なんだというのを積極的に発信していきたいし、皆さんと共有していきたいです。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-