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2025年3月3日
- 教員
【座談会】大学の未来を創る! ~櫻木次期学長の思い、若手職員の熱意~
2025年度より大阪公立大学長に就任予定である櫻木弘之先生と若手職員による座談会を開催。参加職員は、「ファーストペンギンプロジェクト」で自ら発見した課題を、関係各所と連携しながら解決すべく日々尽力しています。
大阪公立大学の未来を描き実現へと邁進する櫻木先生の思いと、日頃から大学業務を支える若き職員たちの熱意が交差します。
座談会参加者
- 櫻木 弘之
大阪公立大学副学長(次期学長予定者)
1987年に助手として大阪市立大学理学部に着任。1999年より理学研究科教授。
長年教育と研究に携わる中で、理学部長・理学研究科長や、特命副学長、副学長、 理事を歴任。
2025年4月に大阪公立大学長に就任予定 - 職員
<ファシリテーター>
石井 亮平(2019年度入職 森之宮キャンパス移転準備室所属)
<参加者>
湯谷 明菜(2022年入職 高専事務部総務課所属)
中島 健(2023年入職 研究推進課所属)
※所属・役職は取材当時 - 【ファーストペンギンプロジェクト(以下、FPP)とは】
FPPは、実務担当者を主体として、ボトムアップ型の業務改善を行うプロジェクト。次世代の法人を担う職員が、自ら発見した課題に対し、関係各所と連携しながら解決を図り、その成果を全学にフィードバックすることを目的としています。また参加者の人材育成にも重点を置き、プロジェクトを通じて業務マネジメント能力を養うなど、成長の場となることを目標にしています。
FPPに参加した経緯
櫻木 弘之 大阪公立大学副学長(以下、櫻木)-
まず初めに、皆さんにお聞きしたいことがあります。忙しい日常業務にプラスして負荷のかかるFPPに立候補するのはとても勇気が必要だったと思います。皆さんがこのプロジェクトに参加した経緯を教えてください。
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石井 亮平(以下、石井)-
私は森之宮キャンパス移転準備室に所属しているため、日常業務では各課との調整事項が多々発生します。キャンパスが分かれていると意見の相違が生じることもありますし、意思疎通が難しい場合もあります。今回FPPへの参加という機会をいただき、これらの課題改善などで微力ながら役立ちたいです。
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湯谷 明菜(以下、湯谷)-
私は民間企業に6年在職した後、大阪公立大学工業高等専門学校(以下、高専)に入職したのですが、高専での事務作業は民間と比べて10年ほど遅れている印象を受けました。まず出退勤の管理が、紙の出勤簿への押印だったことに衝撃を受けました。民間に在籍した経験から事務作業の非効率な面が気になり、FPPに参加することで自分の意見を反映したいと思い、手を挙げました。
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- 中島 健(以下、中島)
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私は成長できる環境に自分を置きたかったという思いがあり、FPPに参加しました。就職活動時に大阪公立大学(以下、OMU)を選んだ理由も、大阪市立大学(以下、市大)と大阪府立大学(以下、府大)が統合するという変革せざるを得ない状況に飛び込んで、自分も職場も一緒に成長できると確信できたからです。
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若手職員の能力向上、成長に不可欠なこととは?
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石井-
大学は「挑戦できる場」だと思っています、またそうあってほしいと思います。
今回、座談会のテーマを考える中で、櫻木先生に聞いてみたかったことは、櫻木先生が求める職員像です。櫻木先生が求める職員一人ひとりの在るべき姿とはどういったものでしょうか。
櫻木-
若い職員には自己実現のためだけではなく、職場や学生、社会のために、個性や能力を発掘して伸ばしていくことを期待したいです。一人ひとり個性も特徴も違いますし、多様なポテンシャルを秘めているはず。特にFPPに参加する方々は、慣例主義や前例主義に対しては時には異を唱えたり、改善策を見出したりして、自分の能力を活かせる人材になってほしいです。
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- 石井
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先ほど中島さんからFPPを自己成長のきっかけにしたいという話がありましたが、職員の能力向上を目的とした制度、施策がもっと増えると良いと思います。
櫻木-
そうですね。大学という狭い世界だけで仕事をしていると視野が狭くなります。若い職員には国内外問わず研修などに参加して、現状が当たり前ではないことを学び、体感してほしい。若い教員も含めて、できるだけ多くの方々に研修機会を設けたいと考えています。
私自身は九州大学大学院に在籍していた際、研究室の先生方が国際的な研究活動にも取り組まれていたので、研究室には海外の研究者や留学生も出入りし、日常的に英語で会話するような環境でした。
研究室が見据えていたのは、小さな大学や研究室ではなく「世界」でした。私も学生の身で生意気かもしれませんが「世界と勝負し、自分たちが未来の研究を背負っていくんだ」という意識と自負を持って研究に打ち込んでいました。学生でも、そのような意識で研究できる空気と環境が研究室にあったことが幸いだったと思います。皆さんにも、若くても経験が少なくても、とにかく最前線の現場で自分たちが舵を取っているんだという意識を持って仕事に臨んでほしいです。
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上司部下という立場にとらわれず、自由闊達な意見交換を
- 櫻木
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大学の目標は、教育や研究を通した人材育成、それこそが最大の社会貢献です。特に公立大学や国立大学は貴重な税金で成り立っているため、研究成果をさまざまな形で社会に還元することが期待されています。そういう意味では大学の一番の使命は、本当に社会貢献できる人材を育成すること。そして、在るべき社会の姿を具体的かつ明確に提示できる大学であることです。その目標に向かっていく上では、新人職員であっても、上司や教員であっても、皆さん同じ立場です。大学の在るべき姿を自由に同じ立場で発言していいのだと思います。
- 中島
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人材育成という面では、私は大きな仕事を若手に任せることが人材育成へとつながり、各自が「なりたい自分」として成長できると思っています。私自身、今回FPP内のチームのリーダーなのですが、全体を俯瞰して情報を精査する必要があるので、通常業務では得られない成長の機会だと実感しています。そういった機会を通常業務で得ることができれば成長速度も速いですし、なりたい自分に近づけるはずです。
加えて、成長の方向性も職員全体で統一することができれば、組織もより良い方向に進めるはずです。例えば人事評価制度の中に個人の能力向上のためのベクトルや方針を示すことができれば、同じ方向に沿って各人が成長できるのではと考えています。
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- 櫻木
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大学の目標とすべき方向性の軸さえぶれなければ、各職員が個性を活かしながら、大学に貢献する内容も成長に至るプロセスも多岐に渡っても良いでしょう。しかし大学の目標がぶれていると、職員の目標自体もバラバラになってしまいます。
学長就任において真っ先に考えたのは、20年、30年、50年先にOMUの目標とすべき姿、理念をしっかり定めることです。多くの方々の意見も参考にしながら、その理念に沿った明確な目標とそこに至る道筋、マイルストーンを定め、それを教職員の皆さんと共有していきます。学長の任期は限られていますが、大学としてのゴールはまだまだ先。今はそこに向かう土台作りの時期です。
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多様な組織運営に対応するには柔軟な考えが大切
- 石井
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土台作りに取り掛かる際、高専や病院など複数の組織を持つ法人としては、民間企業での勤務経験がある職員の視点も重要になると思います。湯谷さんはどうお考えですか?
- 湯谷
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法人組織は、府大、市大、高専、病院など多岐に渡ります。そこに対応するスキルとして、柔軟性が重要であり、必要な考えだと思います。民間企業では方針や施策に応じて毎年目標が変わります。それに対応し目標を達成するには、コミュニケーションスキルや柔軟性が必要でした。
- 櫻木
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特に民間企業だと間近の目的があり、短期目標があって期限が決められていますから、余計に機動性や柔軟性が求められますよね。 長く経営され、成長している企業ほど、創業理念や方向性がしっかりと確立されていて、その上で、時代に応じて必要とされる形に柔軟に変化し発展しています。新しいベンチャーやスタートアップも同様だと思います。
- 石井
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柔軟性というと、周囲からの意見を聞くことが大切だと思っています。変化していく環境の中で柔軟に対応する上で、自分以外の職員の部署事情や仕事内容がわからないもどかしさを感じることがあります。職員同士のつながりを作る機会を設けることができれば、互いの仕事内容や考えを知ることができるのではと思います。
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FPPで実現したい課題解決、大学組織の理想像
- 石井
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今後、私たちがFPPで取り組みたい課題、思い描く大学の理想像についても櫻木先生にお伝えしたいと思います。
- 中島
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私は、同じ組織のはずなのに、市大と府大で業務の進め方や組織・部署の雰囲気が異なるという矛盾を積極的に活用していきたいです。どちらかの基準に合わせるのではなく、ゼロベースで考えて、現代に合うベストな手法、1プラス1が100になるような手法を生み出したいです。具体的には、各職員が持っている経験やノウハウを組織に還元することにより、新しい組織としての成長につながるような仕組み作りです。
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- 櫻木
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最初にお話ししたように、一人ひとりが持つ能力や経験を最大限活かせるようなチーム作りができればいいですよね。森之宮の法人本部で取り組んでいるのは、管理職も含めて職員の机を固定しないフリーアドレスです。普段話さない他部署の職員とコミュニケーションを取るには良い方法です。
- 湯谷
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私は専門知識の仕事に関してはアウトソーシングにするのも1つの手だと思います。内部での人材育成はとても難しく、同じ部署で専門的な仕事に携わっていると人事交流もできませんし、部署異動も難しいです。費用対効果を考慮する必要はありますが、アウトソーシング可能な仕事は外部に任せて、必要な部署に人材を投入するのが理想です。
- 櫻木
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おっしゃる通りです。OMUでも一部の業務をアウトソーシングしていますが、大学業務は特殊なので、委託しても民間企業のようにスムーズに進まないケースもあります。大学は社会から見ると非常に特殊な組織ですが、ずっとそれでいいというわけではありません。やはり社会の中に融和して人事交流するのが理想で、交流する中で大学のことを理解してもらう努力が必要だと思います。
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教員、職員が一丸となり、世界に誇れるOMUを目指す
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- 櫻木
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市大の頃、理学部の教員が、事務職員の皆さんに大学教育や研究現場の状況を共有してもらう取り組みを定期的に行っていました。経理や契約、発注などの事務仕事のおかげで導入された研究機器や最先端研究で使われている手作りの装置などが、いかに研究や教育で役立っているか説明したり、実際に手に取って見て触ってもらいました。そうすると若手を含めてあらゆる部署から多くの職員が参加するようになり、「自分たちはこの道具を通して、世界とつながっているんだ」「自分たちの仕事がこういう形で社会や学問の発展に役立っているんだ」と誇りを持っていただけるようになりました。
研究活動の現場は職員の方々からは見えませんが、もっと目に触れるべきです。なぜなら大学は教職協働で運営していますから。教員の研究成果だけが発信されていますが、でもそれは教員、職員みんなで取り組んだ結果です。このように大学教育や研究現場の状況を職員に共有する機会を設けるのも1つですし、そのような意識付けが大切です。- 石井
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1年間出向していた文科省時代に感じたことですが、私立大学よりも私立大学らしい公立大学を目指したいです。自分たちで寄附を募り、アメリカの大学のように資金源を確保し、調達したお金で大学が実現したいことにどんどん取り組んでいけるような事務組織の強化が必要だと感じています。
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- 櫻木
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そのような機能は非常に大事です。アメリカの有力大学の多くは、寄附が大学収入のかなりの割合を占めています。その理由は、大学への信頼や期待の大きさに他なりません。目先の課題解決も大事ですが、それだけでなく、将来を見据えた、多様で独創的な研究を許容する風土と環境があり、それを担う優れた研究者が沢山いる。そこから予想もつかない革新的なイノベーションが生み出される。またそこで学ぶ学生の独創性や個性を活かし伸ばす教育・研究が行われること、その実績とポテンシャルが期待と信頼につながり、そこに多くの寄附があつまる。そこから更に新たな研究の芽と人材が生まれる、という好循環のシステムが成立しているのだと思います。産学官民共創でも同じです。
残念ながら、日本にはそのような寄附文化やシステムが根付いていないため、寄附による多額の資金調達は容易ではありません。しかし、遠回りのように思われるかもしれませんが、長い目で見ると、そのような「真に期待と信頼を得る大学」になっていくことが大事だと思います。そのためにも、OMUは「研究と研究者を大切にする大学である」、「学生や研究者の多様性・独創性を重視し、自由な発想で学び研究できる大学である」という理念を、ぶれることなく掲げ続けていくこと。そこに優れた研究者や意欲ある学生が集まり、社会からの期待と信頼につながる。それが結果として、企業や投資家からも期待されることにもつながります。その結果は数年では見えなくとも、10年、20年経てばはっきりと見えてくると信じています。本学が社会から信頼され、日本・世界に誇れる大学になる、言い換えればOMUブランドが築かれていくのだと思います。
一方で、大学は社会的信頼の上に立っていることを忘れてはいけません。OMUの教育・研究活動は大阪府市そして国の貴重な税金で支えられ、府民・市民・国民の期待と信頼という基盤の上に成り立っていることです。もちろん、本学には、市大・府大・大阪女子大などの前身校が140年以上の歴史と伝統の上に築き上げた実績と信頼があり、その上に築かれた新大学への期待があります。しかし、その期待と信頼は決して盤石ではありません。信頼を築くには長い年月がかかりますが、信頼を失うのは一瞬です。日頃から、教職員・学生一人ひとりが、自分たちの大学の教育・研究活動が、地域・社会・国民の信頼の上に成り立っている、という自覚と責任感を持つことが重要です。その信頼を裏切らないためにも、大学での勉強や研究を通して、社会にひいては世界に貢献していくことが前提にあり、学生も教職員も、一人ひとりが、大学での勉強や研究を通して、どんな形でもよいので、社会にひいては世界に貢献していこうという意識を持つことが大事だと思います。
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- 石井
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この座談会で私たちも櫻木先生の思い、OMUの目標とすべき姿を共有できました。自己の成長を図るとともに、OMUの発展に寄与していきたいと思います。
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職員は教員の下支えではなく、共に大学を運営するプレイヤー
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- 櫻木
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市大、府大の創立より140年もの間、地道に種蒔きに取り組んできたことで、研究や叡智の蓄積、そして何物にも代えがたい歴史と伝統が本学にはあります。社会にイノベーションをもたらし、価値概念を変える研究・開発は一朝一夕には生み出せません。ですから社会や企業、行政や民間と呼吸をしながら、本当に良いものを作って行きたい。世界水準の研究を行い、大阪、日本を起点としてグローバルに活躍できる人材を育成する大学になって行く。ありきたりかもしれませんが、それを行う時期がまさに今です。
職員は教員の下支えではなく、共に大学を運営するプレイヤーでありパートナーです。誇りを持って大学を動かし、発展させていくのは自分たちなんだという意識で、一緒に大阪公立大を未来へと進めていきましょう。
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