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量子コンピュータ上での量子化学計算の効率向上へ!分子の波動関数を生成するASP法の実用化に大きな一歩
2022年7月25日
- プレスリリース
- 理学研究科
本研究のポイント
◇量子位相推定※1アルゴリズムによる量子化学計算では、求めたい電子状態の真の波動関数※2にできるだけ近い近似波動関数を事前に準備することが計算効率を上げる鍵となる。
◇断熱量子計算アルゴリズムの一種である断熱状態生成法(ASP法)を用い、求めたい電子状態の真の波動関数を効率的に生成するための実用的な計算条件を明らかにした。
◇今後、量子化学の分野においてASP法と量子位相推定を組み合わせる研究が広く展開されることが期待される。
<用語解説>
※1量子位相推定 … 量子コンピュータを用いて、波動関数が時間とともにどのように変化するかを記述する時間発展演算子など、ユニタリー演算子の固有値を古典コンピュータよりも指数関数的に速く計算できる量子アルゴリズム。量子化学計算だけでなく、線形方程式を解く量子アルゴリズムなど、さまざまな問題に応用されている。
※2 波動関数 … 量子力学において粒子の状態を記述する関数。量子化学計算では一般に、原子・分子内での電子の空間分布および電子間の相対配置の情報を含んだ複素関数のことを指す。
概要
大阪公立大学大学院 理学研究科の杉﨑 研司(すぎさき けんじ)特任講師(科学技術振興機構・さきがけ専任研究者)、佐藤 和信(さとう かずのぶ)教授、工位 武治(たくい たけじ)大阪市立大学名誉教授らの研究チームは、量子コンピュータ上で原子・分子の波動関数の精度を向上させることができる断熱状態生成法(adiabatic state preparation, ASP法)の実用的な計算条件を、初めて明らかにしました。
ASP法は、複雑な電子構造を持つ分子の量子化学計算を量子コンピュータ上で効率的に行うための有力手法の1つであると考えられていましたが、具体的な計算条件がほとんど調べられておらず、実用的な手段とは言えない状況でした。ASP法の実用的計算条件を初めて明らかにした本研究成果は、量子コンピュータによる量子化学計算を実際の化学研究に役立てるための大きな一歩と言えます。
本研究成果は、オープンアクセス国際学術誌『Communications Chemistry』に2022年7月25日にオンライン掲載されました。
資金情報
本研究は、JSTさきがけ「量子化学計算の高効率量子アルゴリズムの開発」(JPMJPR1914)、JSPS科研費基盤研究C (18K03465, 21K03407)の対象研究です。
掲載紙情報
発表雑誌: | Communications Chemistry |
論 文 名: | Adiabatic state preparation of correlated wave functions with nonlinear scheduling functions and broken-symmetry wave functions |
著 者: | Kenji Sugisaki, Kazuo Toyota, Kazunobu Sato, Daisuke Shiomi, and Takeji Takui |
掲載URL: | https://doi.org/10.1038/s42004-022-00701-8 |
研究内容に関する問合せ先
大阪公立大学大学院 理学研究科
特任講師:杉﨑 研司(すぎさき けんじ)
TEL:06-6605-2555
E-mail:sugisaki[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください
または、
大阪市立大学名誉教授:工位 武治(たくい たけじ)
TEL:06-6605-2605
E-mail:takui[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください
取材に関する問合せ先
大阪公立大学 広報課
担当 :國田
TEL :06-6605-3411
MAIL:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]の部分を@に変更してください。
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