最新の研究成果

人工知能の分野でも注目 身体化認知のはたらきと脳内メカニズムを実証 ~手を拘束すると言葉の記憶成績が低下~

2022年8月18日

  • プレスリリース
  • 現代システム科学研究科

研究のポイント

◇手の動きを拘束すると、手で動かせる物の意味を処理する脳活動と言語化の速度が低下する

◇言葉の意味を処理することと、体の動きは強く結びついており、脳内で体の動き含めて記憶しているという身体化認知の考え方を実証

大阪公立大学大学院現代システム科学研究科 牧岡 省吾教授の研究グループは、“手で動かせる物を表す言葉”に対して、手の動きが自由な状態と拘束した状態で、脳がどのような反応を示すかの実験を機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いて実施。道具などに関する意味処理を司る左脳の頭頂間溝と下頭頂小葉の活動が、有意な影響を受けることが分かりました。また同時に、意味処理をさせるための問いを与えてから口頭反応までに要する時間も計測。口頭反応の速さも有意な影響を受け、手の拘束によって手で操作可能な物体に対する口頭反応が阻害されることも分かりました。

これらは、手の動きを拘束することが脳内の意味処理に影響することを示し、言葉の意味を処理する時、体の動きを含めて記憶しているという身体化認知の考え方を裏付ける研究結果となりました。


本研究成果は、202288日、「Scientific Reports」に掲載されました。

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<用語解説>

〇機能的近赤外分光分析法(fNIRS)
fNIRSは、頭部に装着したプローブから近赤外光を照射し、大脳から反射される光の波長を分析することで脳活動を測定する方法です。脳のある部位の活動が高まると、その部位の血管が拡張し、酸素を含む血液が流れ込みます。血液中の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンは近赤外光の吸収特性が異なるため、脳内の毛細血管を通って反射してくる近赤外光の波長特性を分析することで、その部位がどの程度強く活動しているのかを測ることができます。

〇有意な影響
この研究では「手で操作可能な物を表す単語」と「手で操作できない物を表す単語」の2種類を使い、手の動きを拘束することによる変化を測定しました。その結果、口頭反応の速度と、左脳の頭頂間溝と下頭頂小葉の活動について、単語の種類と手の動きの拘束の効果に「有意な交互作用」がみられました。これは、手の拘束によって、手で操作可能な物を表す単語の処理が、手で操作できない物を表す単語と比べて阻害されていることを意味します。

〇意味処理
私達がパソコンの画面上の文章を読むとき、まず文字の形が処理されることで単語が特定され、次に単語が表す物や出来事などが記憶から引き出されます。認知心理学では、単語が表す対象に関する記憶が引き出された後の処理のことを意味処理と呼びます。


この研究では、人工知能の研究でも注目される「身体化認知」のはたらきを実証しました。脳活動の測定・分析方法を確立するまでが大変でしたが、第1著者の大西さんが粘り強く取り組み、十分な精度で測定できるようになりました。2つの物の大きさを比較する課題も大西さんのアイディアです。

牧岡 省吾 教授

牧岡 省吾 教授

資金情報

科学研究費基盤研究(C) (一般) 21K12613

掲載誌情報

発表雑誌 Scientific Reports
論文名 Hand constraint reduces brain activity and affects the speed of verbal responses on semantic tasks
著 者 Sae Onishi, Kunihito Tobita & Shogo Makioka
掲載URL/DOI https://doi.org/10.1038/s41598-022-17702-1 


プレスリリース全文 (1.1MB)

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 現代システム科学研究科
教授:牧岡 省吾(まきおか しょうご)
TEL:072-254-9187
Email: makioka[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください

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