最新の研究成果
肝がんを伴う高度脂肪肝から肝星細胞を単離する方法を開発~1細胞レベルでの細胞の性質解析が可能に~
2022年9月12日
- プレスリリース
- 医学研究科
本研究のポイント
◇肝がんの特性を理解するには、様々な状態の肝臓から肝星細胞を効率良く単離してがん微小環境における肝星細胞の性質を解析する必要がある。
◇脂肪肝の場合、狙った肝星細胞の単離が難しく、また熱ストレスの影響で正確な遺伝子情報の解析ができなかったが、特定の肝星細胞をより精密に単離する方法を開発した。
概要
図1. マウスとヒトの肝癌組織から低温条件(6℃)で高純度の肝星細胞を単離することに成功
大阪公立大学大学院医学研究科病態生理学の大谷 直子教授、山岸 良多助教、程 禕特任助教を中心とするグループは、肝胆膵病態内科学の河田 則文教授らと共同で、肝がんを伴う高度脂肪肝から肝星細胞を単離する方法を開発しました。本研究成果により、これまで解析されていなかったがん微小環境における肝星細胞の1細胞レベルの性質変化が明らかになり、がん予防や治療につながることが期待されます。
がんの組織はがん細胞そのものだけでなく、肝星細胞など様々な種類の細胞種が集まってがん微小環境を構成しています。本研究グループが以前明らかにしたように、肝がんでは腫瘍部に存在する肝星細胞から分泌される因子が抗腫瘍免疫を抑制し、肝がんを進展させます。そのため、肝がんの特性を理解するには、様々な状態の肝臓から肝星細胞を効率良く単離して、微小環境における肝星細胞の性質を解析する必要があります。
近年、シングルセルRNAシーケンス解析の手法が発達し、1細胞レベルでの細胞の性質解析が可能となりました。これまでマウスの正常肝から肝星細胞を単離する方法は報告されていましたが、内臓脂肪を多く蓄積した肥満マウスの脂肪肝や、脂肪肝を素地とする腫瘍に存在する肝星細胞を高純度かつ高効率に単離する方法は開発されていませんでした。また、細胞単離時に使用する酵素処理を37度で実施すると、熱ストレス関連遺伝子が有意に発現上昇し、アーティファクト※となることも報告されていました。
そこで本研究グループは、内臓脂肪を多く蓄積した脂肪肝の腫瘍部から、熱ストレス関連アーティファクトを極力抑えた6度という低温で酵素処理し、かつ、密度勾配遠心分離法と肝星細胞の細胞表面分子CD49aを用いたセルソーティングを組み合わせた方法により、高純度に効率よく肝星細胞を単離する方法の開発に成功しました。(図1)
本研究成果は、2022年7月に国際学術誌「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」(IF = 8.797)オンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
近年、1細胞レベルの情報解析が急速に発展しています。個体を構成する細胞の1細胞解析による情報は、生命現象の理解に重要ですが、その情報を得るためには、個体の臓器から細胞を高純度に単離し、ストレスを回避してできる限り「直ちに」遺伝子発現情報を得ることが必要です。本研究では、内臓脂肪が高度に蓄積した肥満マウスやヒトの肝がんサンプルから、高純度に肝星細胞を単離することに成功しました。本手法で単離したばかりの肝星細胞は、株化した肝星細胞では見られない、生体内の機能を反映した性質を保持していました。今後、本手法は、ヒト肝がんの微小環境の理解に役立つものと期待されます。
大谷 直子教授
掲載誌情報
雑誌名: |
Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology(IF = 8.797) |
論文名: |
Non-heat-stressed method to isolate hepatic stellate cells from highly steatotic tumor-bearing liver using CD49a |
著者: |
程 禕、山岸良多、野中允幾、松原三佐子、河田則文、大谷直子 |
掲載URL: |
https://doi.org/10.1016/j.jcmgh.2022.07.006 |
補足情報
※アーティファクト:実験上の条件によって変化する本来見られない人工的な現象、誤った実験結果、数値のゆらぎ
資金情報
日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「微生物叢と宿主の相互作用・共生の理解と、それに基づく疾患発症のメカニズム解明」領域における研究開発課題「腸肝軸を介した腸内細菌叢が関わる肝疾患発症メカニズムの解明とその制御(研究開発代表者:大谷直子)JP20gm1010009」、
AMED革新的がん医療実用化研究事業「がん微小環境における細胞間ネットワークの制御による新規がん予防・治療法の開発(研究開発代表者:大谷直子)JP19ck0106260」、
公益財団法人高松宮妃癌研究基金(研究代表者:大谷直子)
公益財団法人武田科学振興財団(研究代表者:大谷直子)
公益財団法人ヤクルト・バイオサイエンス研究財団(研究代表者:大谷直子)
研究内容に関する問合せ先
大阪公立大学大学院医学研究科 病態生理学
担当:教授 大谷 直子
TEL:06-6645-3711
E-mail:naoko.ohtani[at]omu.ac.jp
[at]を@に変更してください。
取材に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:上嶋 健太
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
[at]を@に変更してください。
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