最新の研究成果
人の歩行運動からの発電性能を約90倍に高めることに成功 ―充電不要な小型ウェアラブル端末開発への応用が期待―
2022年11月2日
- プレスリリース
- 工学研究科
本研究のポイント
◇U字型の振動増幅パーツを取り付けた1円玉サイズの小型の振動発電※1素子を開発。
◇素子の面積を増大させることなく、発電性能を約90倍に高めることに成功。
◇歩行運動を含む非定常的な振動から、小型電子機器を駆動可能な発電量を生み出す技術への応用が期待。
概要
大阪公立大学大学院 工学研究科のSengsavang Aphayvong大学院生(博士後期課程1年)、吉村 武准教授、兵庫県立大学大学院 工学研究科の神田 健介准教授、大阪産業技術研究所の村上 修一室長らの研究グループは、U字型の振動増幅パーツを取り付けた小型の振動発電素子を開発し、人の歩行運動で発生する振動からの発電性能を約90倍に増大させることに成功しました。
IoTの大規模な社会実装に向けて、近年、環境中に存在する熱や光などの微小なエネルギーから電力を取り出すエナジーハーベスティング※2と呼ばれる技術が注目を集めています。中でも、振動する物体が持つ運動エネルギーから電力を取り出す技術は振動発電※3と呼ばれ、天候や気象に左右されないという特徴を持ちます。本研究グループはこれまでに、圧電効果※4を使った振動発電素子の開発に取り組んでおり、これまでにモーターや洗濯機など周期が一定な機械的振動からはマイクロワットレベルの電力を得ることに成功していました。しかし、人の歩行運動等で発生する衝撃的な振動では、発電電力が大幅に低下するという問題がありました。
本研究では、振動エネルギーを電力に変換する振動発電素子にU字型の構造を持つ振動増幅パーツを取り付けた1円玉サイズの素子を新たに開発し、衝撃的振動からの発電性能を約90倍に増大させることに成功しました。
本成果は、素子の面積を増大させることなく発電性能を向上できるものであり、歩行運動を含む非定常的な振動から、スマートフォンやワイヤレスイヤホンなどの小型ウェアラブル端末を駆動することが可能な発電量を生み出す技術への応用が期待されます。
本研究成果は、米国物理学協会が刊行する国際学術誌「Applied Physics Letters」に、2022年10月26日にオンライン掲載されました。
衝撃を利用する振動発電素子の性能向上に成功しました。現状では、この技術で動作させることができる電子機器は非常に限られていますが、今後、電子デバイスの省電力化も進んでいくと予想されることから、充電不要なウェアラブル端末の実現に貢献する成果になると期待しています。
吉村 武准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】Applied Physics Letters
【論文名】Enhanced Performance on Piezoelectric MEMS Vibration Energy Harvester by Dynamic Magnifier under Impulsive Force
【著者】Sengsavang Aphayvong, Shuichi Murakami, Kensuke Kanda, Norifumi Fujimura, Takeshi Yoshimura
【論文URL】https://doi.org/10.1063/5.0116838
プレスリリース全文 (669.9KB)
資金情報
本研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST、代表:神戸大学 神野 伊策教授、JPMJCR20Q2)からの支援を受けて実施されました。
用語解説
※1 振動発電…振動エネルギーから圧電効果や静電効果などを利用して電力を取り出す技術。
※2 エナジーハーベスティング…人の歩行や橋・道路などの振動、室内の照明光、クルマの廃熱、テレビ放送の電波など、身の回りの環境に存在する微小なエネルギーから電力を取り出す技術。
※3 振動発電…振動する物体が持つ運動エネルギーから、電磁誘導などの効果を利用して電気エネルギーを取り出す技術。微細加工技術の発達により、静電誘導や圧電効果*4などを用いた小型で高出力な素子の開発が進められています。
※4 圧電効果…特定の種類の物質において、圧力に応じて電荷や電圧が発生する現象と、電圧に応じて歪が発生する現象の総称。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院 工学研究科
准教授 吉村 武(よしむら たけし)
TEL:072-254-9327
E-mail:yoshimura[at]omu.ac.jp
兵庫県立大学大学院 工学研究科
准教授 神田 健介(かんだ けんすけ)
TEL:079-267-4870
E-mail:kanda[at]eng.u-hyogo.ac.jp
大阪産業技術研究所 電子デバイス研究室
室長 村上 修一(むらかみ しゅういち)
TEL:0725-51-2663
E-mail:sh-murakami[at]orist.jp
[at]を@に変更してください
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
兵庫県立大学姫路工学キャンパス 総務課
担当:種谷
TEL:079-266-1661
E-mail:soumu_kougaku[at]ofc.u-hyogo.ac.jp
大阪産業技術研究所 顧客サービス部
担当:渡辺
TEL:0725-51-2512
E-mail: yoshito[at]orist.jp
[at]を@に変更してください
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