最新の研究成果
らせん結晶内で回転する原子の運動モードを観測-真のカイラルフォノンの発見-
2022年11月2日
- プレスリリース
- 工学研究科
本研究のポイント
◇辰砂カイラル結晶内で原子の回転運動モード(カイラルフォノン※1)を発見
◇円偏光ラマン散乱測定と第一原理計算によって真のカイラルフォノンを同定
◇光・フォノニクス・スピントロニクスデバイスの創成につながると期待
概要
大阪公立大学の戸川欣彦教授、東京工業大学 理学院 物理学系の佐藤琢哉教授と村上修一教授、放送大学の岸根順一郎教授らの研究チームは、辰砂(α-HgS)のカイラル結晶内において、「回転する原子の運動モード(カイラルフォノン)」を発見した。
本研究では、らせん軸をもつ3次元系カイラル結晶に着目し、α-HgS結晶を用いた円偏光ラマン散乱※2測定を行い、円偏光がもつ角運動量をカイラルフォノンに転写することに成功した。また、第一原理計算結果との比較によって、今回観測されたカイラルフォノンはらせん軸に沿って伝播する(真のカイラルフォノンである)ことが判明した、カイラルフォノンの伝播方向は、原子の回転方向によって反転し、それが結晶の掌性(右手系・左手系)で逆になることを見出した。本研究によって、ラマン散乱過程における角運動量保存則を明確に実証できた。さらに本手法はらせん軸をもつカイラル結晶の掌性を光学顕微鏡分解能で判定することを可能とする。
これにより、光・フォノニクスデバイスにおける、情報担体としての角運動量の移行が可能になり、スピントロニクスデバイスと組み合わせて光・フォノニクス・スピントロニクスデバイスの創成につながると期待される。
本研究は、東京工業大学 理学院 物理学系の佐藤琢哉教授、村上修一教授、Zhang Tiantian(ツァン ティエンティエン)特任助教、Mao Huiling(マオ フアリン)博士課程学生、石戸享佑修士課程学生、放送大学の岸根順一郎教授、大阪公立大学の戸川欣彦教授、高阪勇輔助教、岩﨑賢研究員によって行われ、本研究成果は10月31日付の「Nature Physics」に掲載された。
掲載誌情報
【発表雑誌】Nature Physics
【論文名】Truly chiral phonons in α-HgS
【著者】Kyosuke Ishito, Huiling Mao, Yusuke Kousaka, Yoshihiko Togawa, Satoshi Iwasaki, Tiantian Zhang, Shuichi Murakami, Jun-ichiro Kishine, and Takuya Satoh
【論文URL】https://doi.org/10.1038/s41567-022-01790-x
プレスリリース全文 (1MB)
資金情報
本研究は、日本学術振興会科研費(JP19H01828, JP19H05618, JP19K21854, JP21H01032, JP22H01154)、大学共同利用機関法人自然科学研究機構新分野創成センター先端光科学研究分野プロジェクト(01212002, 01213004)の助成を受けたものです。
用語解説
※1 フォノン…結晶中の原子は振動しており、その振動は結晶内部を波のように伝播している。これをフォノンという。
※2 ラマン散乱…単色光を物質に照射すると、光が物質中の原子・分子振動(フォノン)等と相互作用し、入射光と異なる波長を持つ光が散乱される。これをラマン散乱といい、この原理を用いて物質中のフォノン等の情報を得る手法をラマン分光法という。ラマンスペクトルのなかで、入射光よりも低い振動数領域に観測されるスペクトルをストークススペクトル、高い振動数領域に観測されるスペクトルをアンチストークススペクトルとよぶ。
研究内容に関する問い合わせ先
東京工業大学 理学院 物理学系 教授
佐藤琢哉
Email: satoh[at]phys.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2716
放送大学 教養学部 教授
岸根順一郎
Email: kishine@[at]ouj.ac.jp
TEL: 043-298-4466
大阪公立大学 大学院工学研究科 電子物理系専攻 教授
戸川欣彦
Email: ytogawa[at]omu.ac.jp
TEL: 072-254-8216
[at]を@に変更してください
報道に関する問い合わせ先
東京工業大学 総務部 広報課
Email: media[at]jim.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2975
放送大学 総務部 広報課 メディア戦略係
Email: koho_ka[at]ouj.ac.jp
TEL: 043-298-4466
大阪公立大学 広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
[at]を@に変更してください
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