最新の研究成果

小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析: 砂の物質分析チーム 研究成果の科学誌「Nature Astronomy」論文掲載について

2022年12月20日

  • プレスリリース
  • 理学研究科


日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔

この研究成果は、はやぶさ2初期分析チームのうち「砂の物質分析チーム」によるものです。本学からは理学研究科地球学専攻の瀬戸雄介准教授がこのチームに参加し、成果の一部に貢献しました。

発表のポイント

●小惑星リュウグウは、液体の水との反応を大規模に経験したものからできていることが、他の研究グループの研究[引用文献:1-5]ですでに明らかになっています。しかし、「はやぶさ2」の現地での観測からは、小惑星リュウグウがかつてより大きな天体の一部だったときに、内部の温度が高かった[引用文献:6]、あるいは、過去に太陽の近くに到達する軌道にいたため表面から深さ約1メートルまでが強く加熱された[引用文献:7]結果、天体全体か天体表層の水がほとんど宇宙空間に失われたと解釈できるデータが得られていました。本研究は、両者の矛盾を解消するものです。

●大気のない天体表面はいくつかの原因で徐々に変化しています(宇宙風化といいます)。本研究は、小惑星リュウグウの表面物質も宇宙風化を受けていることを示しました。しかし、小惑星リュウグウには、月にもイトカワにも含まれていない含水層状珪酸塩鉱物(粘土の仲間)が大量に含まれているため、水のない月や小惑星イトカワのものとは異なる独特の宇宙風化でした。いわば、大気のない天体はそれぞれの個性の違いに応じて違った日焼けのしかたをするということです。

●リュウグウでの宇宙風化の特徴は、マイクロメテオロイド(注1)の衝突による加熱によって石(や砂)の表面数ミクロンが溶融しているものがかなりあるのが特徴です。この溶融で粘土は脱水し、まるで天体全体が強い加熱を受けたかのように太陽光を反射していることが分かりました。

●リュウグウが属するC型小惑星は小惑星の集中部であるメインベルトに最も多く存在します。本研究でC型小惑星の宇宙風化の実態が初めて明らかになったことにより、水を含む小惑星の反射スペクトル(小惑星が太陽光をどのように反射しているか)の解釈が大きく進むと期待されます。

概要

先ほどポイントでも述べたように、太陽系の大気のない天体表面は、マイクロメテオロイド(注1)が秒速10キロメートルを超えるような速度で衝突、太陽からのプラズマ(注2)の流れである太陽風の照射、さらには、太陽及び銀河宇宙線(注3)の照射に常に曝されている非常に厳しい環境にあります。これらの影響で、大気(と磁場)のない天体の表面の化学組成、構造、そして、光学的特性が徐々に変わっていることが知られています。この変化を宇宙風化といいます。

小惑星リュウグウは、内部太陽系の小天体で最も多いC型小惑星に属しています。「はやぶさ2」によるリュウグウからのサンプルリターンは、このC型小惑星の特徴を実験室で研究する初めての機会を与えてくれました。宇宙風化による試料の表面の変化は、今まで地球に持ち帰られた月やS型小惑星(注4)イトカワの試料で研究されてきました[引用文献:8-14]。これらの試料は、基本的にヒドロキシ基(OH)や水分子(H2O)を含まない無水鉱物からできています。一方、C型小惑星であるリュウグウは、そのもととなる天体(注5)ができたときに、鉱物、有機物、氷が集積し、その後、氷が融解して鉱物が水と大規模に反応しました。この天体が、他の天体の衝突で破壊されてできた破片が集まって現在のリュウグウができました[引用文献:5]。このため、リュウグウの物質は、層状珪酸塩鉱物(注6)という粘土鉱物の仲間を大量に含んでいます。宇宙風化が検出できたリュウグウ粒子(本研究では「砂」サイズの試料を分析しているため、サンプルを粒子と表すことにします)には、層状珪酸塩鉱物の結晶構造が壊れてしまっているものと、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けているものがありました。どちらの場合でも、層状珪酸塩鉱物に含まれていた3価の鉄イオンが2価に還元されていました。また、層状珪酸塩鉱物に含まれるヒドロキシ基が失われていました。これは、リュウグウ粒子表面から水が取り去られたことを意味します。

press_1215

小惑星リュウグウの宇宙風化組織
点線より右側は太陽風照射による宇宙風化(Smooth layer)を受けた部分、点線より左側は、メテオロイド衝突による宇宙風化(Frothy layer)を受けた部分です。 Frothy layerは表面数ミクロンが融けて泡立っています。Frothy layerには、後に近くから飛来し付着した岩石の溶融物が薄く張り付いています(Melt splash)。このように、リュウグウの複雑な歴史が読み取れます。走査電子顕微鏡で撮影した反射電子像です

特に、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けた場合、脱水反応は顕著でした。これらの結果は、C型小惑星における宇宙風化では、小惑星リュウグウの表面に存在している層状珪酸塩鉱物の脱水が大きく寄与していることを示しています。「はやぶさ2」が測定した、2.7ミクロンの波長の光の吸収が弱い小惑星の反射スペクトル(注7)は、ヒドロキシ基が少ないことを示しています。C型小惑星一般においても、2.7ミクロンの吸収帯が弱い天体は、天体全体で揮発性物質が失われたというよりも、宇宙風化によって引き起こされた脱水の程度を示しているのかも知れません。

掲載誌情報

【タイトル】日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔
【原題】A dehydrated space-weathered skin cloaking the hydrated interior of Ryugu
【掲載誌】Nature Astronomy
【DOI】10.1038/s41550-022-01841-6
【公表日】日本時間2022年12月20日(火)午前1時(オンライン公開)

プレスリリース全文 (885.4KB)

脚注

(注1)惑星間空間を高速で移動する天然の固体物質のことです。地球大気を通過して地表に落下したもののうち2mm以上の大きさのものは隕石とよばれます。そのなかで小さなものはマイクロメテオロイドとよびます。今回、衝突してきたメテオロイドの大きさは分からないのですが、マイクロメテオロイドという用語に統一しました。

(注2)高温のために原子が正イオンと電子に分かれた状態になっている気体のことです。

(注3)太陽宇宙線は、太陽フレアやコロナ質量放出に伴って放出される高エネルギーの荷電粒子のことです。太陽風のプラズマの持つエネルギーと比べて大きく数メガ電子ボルトから数ギガ電子ボルトの運動エネルギーを持ちます。太陽風は数キロ電子ボルトなので3桁以上高エネルギーです。銀河宇宙線とは太陽系外で発生した高エネルギー粒子のことをいい、100メガ電子ボルトから1ギガ電子ボルトの運動エネルギーを持つものが多いです。

(注4)S型小惑星とは、珪酸塩鉱物という鉱物を多量に含む岩石質の小惑星のことをいいます。

(注5)リュウグウは、ラブルパイル小惑星という、より大きな天体が破壊されて作られた破片が集積してできた「がれきの集合体」のような天体です。詳しくは[引用文献:26]を参照して下さい。

(注6)リュウグウにはサポナイトと蛇紋石という2種類の層状珪酸塩鉱物が多量に含まれています。前者は、結晶のなかに層間水分子という容易に鉱物から出入りすることが可能な水分子を含むことができます。しかし、リュウグウから回収された試料に含まれているサポナイトは、宇宙風化を受けていない試料であっても、小惑星上にいたときにすでに層間水分子のほとんどを失っていたことが分かっています。詳しくは[引用文献:2]を参照して下さい。

(注7) 反射スペクトルとは、ある物質の表面に光を照射し反射された光を、色々な波長(あるいはその逆数である波数)ごとの反射率として表わしたもののことをいいます。

 引用文献

[1] Yada, T. et al. Nature Astron. 6, 214–220 (2021).
[2] Yokoyama, T. et al. Science 10.1126/science.abn7850 (2022).
[3] Nakamura, E. et al. Proc. Jpn. Acad. Ser. B 98, 227–282.
[4] Ito, M. et al. Nature Astron. https://doi.org/10.1038/s41550-022-01745-5 (2022).
[5] Nakamura, T. et al. Science 10.1126/science.abn8671 (2022).
[6] Kitazato, K. et al. Nature Astron. 5, 246–250 (2021).
[7] Morota, T. et al. Science 368, 654–659 (2020).
[8] Keller, L. P. & McKay, D. S. Geochim. Cosmochim. Acta 61, 2331–2341 (1997).
[9] Noble, S., Pieters, C. M. & Keller, L. P. Icarus 192, 629–642 (2007).
[10] Noguchi, T. et al. Science 333, 1121–1125 (2011).
[11] Noguchi, T. et al. Meteorit. Planet. Sci. 49, 188–214 (2014).
[12] Matsumoto, T. et al. Icarus 257, 230–238 (2015).
[13] Thompson, M. S. et al. Earth Planet. Space 66, 89 (2014).
[14] Burgess, K. D. & Stroud, R. J. Geophys. Res. Planets 123, 2022–2037 (2018).
[26] Watanabe, S. et al. Science 364, 268-272 (2019).

研究に関する問い合わせ先

大阪公立大学 大学院理学研究科
准教授 瀬戸 雄介(せと ゆうすけ)
TEL:06-6605-3194
E-mail:seto.y[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs04