最新の研究成果

-超省エネデバイスの実現へ向けて-実用化可能なスピン拡散長を持つ分子薄膜材料を発見

2023年1月11日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇有機EL材料αNPD分子薄膜の室温でのスピン輸送1に成功し、実用化可能なスピン拡散長2を持つことを発見。
◇可視光を用いたスピン輸送制御の実現により、超省エネデバイスの実現が期待。 

概要

大阪公立大学大学院 工学研究科の仕幸 英治教授、手木 芳男客員教授(大阪市立大学名誉教授)の研究グループは、有機EL材料として知られるαNPD分子薄膜の室温でのスピン輸送に成功しました。また、この分子薄膜が室温で約62 nmという、実用化が期待できる長さのスピン拡散長を持つことを発見しました。

物質中の電子の持つ磁気情報(スピン)と電荷の両方を活用するスピントロニクス技術が次世代のキーテクノロジーとして注目されています。通常、電子デバイスにおける情報伝搬は電流で行うため、電力を消費することや、デバイスの小型化による発熱リスクが高まるなど問題がありますが、スピンの向きを揃えて電流のように輸送することにより、電力消費をほとんど行わず情報を伝搬することが可能になります。

スピン輸送の実用化には、製品化の際の加工精度の観点から室温で数十nmのスピン拡散長を持つことが望まれますが、本研究で発見した分子薄膜材料は62 nmと真空蒸着法で作製された分子材料の中では長いスピン拡散長を持ちます。また、これまでスピン輸送の制御には電気を用いていましたが、分子材料は光導電性3を持つため、本研究で発見した分子薄膜材料は可視光を用いてスピン輸送が制御できる可能性があります。この手法により電力をほとんど消費せずデバイスの発熱も低減した超省エネデバイスの実現が期待できます。

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図1 αNPD分子薄膜のスピン輸送実証の概要図

本研究成果は、Elsevierが刊行する国際学術誌「Solid State Communications」のオンライン速報版に、2022年12月8日に掲載されました。

分子薄膜を用いるスピントロニクスデバイスの創製を目指しています。これまでに国内外で様々な分子薄膜におけるスピン輸送の報告がありますが、実用化には分子薄膜へのスピン注入やスピン輸送機構を詳細に解明することと、スピン輸送の自在な制御が必要であり、重要な研究課題です。それらの解決を目指しています。

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仕幸 英治教授

 

掲載誌情報

【発表雑誌】Solid State Communications
【論 文 名】Spin transport properties in a naphthyl diamine derivative film investigated by the spin pumping
【著  者】Yuichiro Onishi, Yoshio Teki, Eiji Shikoh
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.ssc.2022.115035
プレスリリース全文 (1.6MB)

資金情報

本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費補助金(B)(20H02715)および文部科学省 物質・デバイス領域共同研究拠点 基盤共同研究の支援を受けて実施されました。

用語解説

※1 スピン輸送…例として電子が、その磁気情報(スピン:電子の持つ磁石のような性質)を保ったまま輸送する現象。電子に依存しないスピン輸送現象もある。
※2 スピン拡散長…スピン輸送の特性の一つであり、最初のスピン状態を保ったままスピンの輸送が可能な距離。
※3 光導電性…物質に光を照射すると、物質中の電気伝導を担う物質(電荷)の量が変化することにより電気の流れやすさが変化する特性。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
教授 仕幸 英治(しこう えいじ)
TEL:06-6605-2690
E-mail:shikoh[at]omu.ac.jp ※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp ※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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