最新の研究成果
チュウゴクオオカミで初めてとなる鼠径ヘルニアの治療に獣医学研究科の秋吉教授らが協力
2023年2月15日
- 獣医学研究科
ポイント
◇チュウゴクオオカミにおける鼠径ヘルニア治療の報告。
◇「鼠径ヘルニア」の典型的な所見が認められなかった稀なケースで、「会陰ヘルニア」と誤診しかけたが、本学獣医学研究科の秋吉 秀保教授らの協力による適切な診察で正確な診断・処置ができ、完治に至った。
概要
会陰ヘルニアは、骨盤隔膜の破綻(直腸壁を支持する骨盤隔膜を構成する筋組織が委縮したり菲薄化したりすることで生じる)により腹部内容物が骨盤隔膜と直腸の間に脱出する状態をいいます。脱出内容は肛門の腹側、背側あるいは腹外側皮下に逸脱するため、一般的に会陰部に腫脹が認められ、その治療は骨盤隔膜の再建※1により行われます。
一方、鼠径ヘルニアは、鼠径輪の欠損から腹部内容物が脱出し、文字通り鼠径部(足の付け根)に膨隆が認められます。この二つのヘルニアは解剖学的な筋肉の構成や手術手技が全く違うため、外科的な治療※2を行う上で、正確な診断がとても重要です。
今回、会陰部に腫脹が認められたため、所見からは会陰ヘルニアと診たてて治療方針などを想定していましたが、本学獣医学部附属 獣医臨床センター 軟部組織外科の秋吉 秀保教授らの協力のもと、論理的な過程に基づく適切な診察を行ったところ、鼠径ヘルニアであることが分かり、適切な処置を行うことができました。
獣医学研究科 秋吉 秀保教授
今回、天王寺動物園の安福副園長から会陰部が腫脹しているチュウゴクオオカミの診断・治療について相談を受けました。本学獣医学部附属の獣医臨床センター軟部組織外科診療科チームが天王寺動物園に伺って、天王寺動物園の獣医師チームと一緒にこのチュウゴクオオカミの診断を進めた結果、会陰部の腫脹は鼠径部から連続している脂肪組織が原因である事がわかり、鼠径ヘルニアに対する手術を無事に実施することが出来ました。幸い、術後も良好に経過してくれていて、天王寺動物園のスタッフの皆さんの適切な術後管理に深く感謝しています。今後も天王寺動物園の展示動物たちの健康管理に貢献できればと思っています。
掲載誌情報
【発表雑誌】動物園水族館雑誌 第64巻 第3号
【論文名】チュウゴクオオカミに発症した鼠経ヘルニアにおける外科的治療例
【著者】安福 潔, 平田 翔吾, 佐野 祐介, 小川 由華, 図師 尚子, 秋吉 秀保
解説
※1 骨盤隔膜構成筋を縫縮する基本的な方法をはじめとして、内閉鎖筋転位術、浅臀筋転移術、半腱様筋転位術および浅臀筋転位術と内閉鎖筋転位術の併用、総鞘膜を利用した骨盤隔壁再建術や人工材料を用いたメッシュ法、キチンフェルト法などが臨床応用されています。
※2 鼠径ヘルニアの外科的治療は腹腔内容を還納してヘルニアの再発を防ぐため、ヘルニア孔を閉鎖することで修復を図りますが、前縫工筋弁や合成のメッシュを用いる方法があります。
参考情報
地方独立行政法人 天王寺動物園 Webサイト(チュウゴクオオカミの鼠径ヘルニア治療についての論文が掲載されました)
本件に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院 獣医学研究科
教授 秋吉 秀保(あきよし ひでお)
TEL:072-463-5460
E-mail:h.akiyoshi[at]omu.ac.jp
地方独立行政法人 天王寺動物園
担当:副園長 安福 潔(やすふく きよし)
TEL:06-6771-2151
E-mail:s-tenji[at]tennojizoo.or.jp
※[at]を@に変更してください。
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