最新の研究成果
悪性黒色腫細胞の増殖を抑制する因子を明らかに 新しい予後マーカーとなる可能性に期待
2023年3月6日
- 医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇癌関連線維芽細胞(CAF)※1由来のエクソソーム※2が、悪性黒色腫※3細胞の増殖に及ぼす影響を検討。
◇CAF由来のエクソソームにはCD9※4およびCD63※4が発現しており、その中でもCD9陽性のエクソソームは悪性黒色腫細胞の増殖を抑制。
◇CAF由来のCD9陽性エクソソームが検出された患者は、非検出者より5年無病生存率が良好。癌の悪性度を評価する有用なマーカーとなりうる可能性。
概要
大阪市立大学大学院医学研究科 形成外科学 藤井 奈穂大学院生、元村 尚嗣教授らの研究グループは、CAF由来のエクソソームにはCD9およびCD63が発現しており、その中でもCD9陽性のエクソソームは悪性黒色腫細胞の増殖を抑制していることを明らかにしました。
悪性黒色腫は進行性の高い皮膚がんの一種であり、早期に発見された悪性黒色腫は、外科的切除により治療が可能である場合も多いものの、遠隔転移を起こすことも少なくありません。現在は、予後指標として腫瘍の厚さや潰瘍の有無などが挙げられていますが、悪性化の可能性をより正確に評価するための有用なマーカーを発見することが、適切な治療法を開発するために必要であると考えられます。
CAF由来のエクソソームの役割
本研究により、CD9陽性エクソソームは悪性黒色腫の増殖を抑制しているとともに、悪性度を評価するための有用なマーカーとなりうることが示唆され、今後の治療法開発の一助となることが期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Anticancer Research」にオンライン掲載されました。
形成外科医として、普段は皮膚癌に対して外科的な治療を行っていますが、それ以外の治療法についても研究したいと以前から考えていました。本研究により、CD9陽性エクソソームが、悪性黒色腫の悪性度を評価する有用なマーカーとなる可能性が示唆されました。さらに研究を進めることで新たな治療法の開発に繋がることが期待できます。
藤井 奈穂大学院生
掲載誌情報
【発表雑誌】Anticancer Research
【論 文 名】CD9-positive Exosomes Derived from Cancer-associated Fibroblasts Might Inhibit the Proliferation of Malignant Melanoma Cells
【著 者】Naho Fujii, Masakazu Yashiro, Takaharu Hatano, Heishiro Fujikawa, Hisashi Motomura.
【掲載URL】https://doi.org/10.21873/anticanres.16130
資金情報
本研究は科研費(日本学術振興会科学研究費補助金第19K10011号)の交付を受けて実施しました。
用語解説
※1 癌関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblasts、CAF):癌細胞の周囲にある線維芽細胞(間質を構成する繊維を産生する細胞)のこと。
※2 エクソソーム:様々な細胞から分泌される直径100nm前後の細胞外小胞。細胞間の情報伝達を行っているといわれている。
※3 悪性黒色腫(malignant melanoma、MM):メラノサイトが癌化した皮膚悪性腫瘍。いわゆる、「足の裏の黒子が大きくなってきた」 などで心配される皮膚腫瘍。近年世界で増加傾向にある。日本では人口10万人あたり1~2人程度の発生率であるが、日本でも増加してきている。
※4 CD9・CD63・CD81: テトラスパニンという、タンパク質の一種。細胞膜を4回貫通する構造をもつ膜タンパクファミリーの仲間である。CDとはcluster of differentiationの略。もともとは白血球の分化にかかわる抗体の分析の際に発見されたものであるが、解析の結果、エクソソームにはCD9、CD63、CD81が含まれることが多く、エクソソームの表面マーカーとして知られている。
研究内容に関する問い合わせ先
医学研究科 形成外科学
担当:藤井 奈穂
TEL:06-6645-3892
E-mail:t21578r[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
広報課 担当:久保
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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