最新の研究成果
泌乳牛の高い受胎率の実現をめざして 出産回数の違いによって人工授精の最適なタイミングが異なることを明らかに
2023年4月27日
- 獣医学研究科
ポイント
◇2産次以上のウシは1産次のウシに比べて、受胎率の高くなる人工授精から排卵までの期間は短いことが明らかに
◇1産次のウシでは、人工授精から24時間以内に排卵が起きた場合の受胎率は50%以上
概要
牛乳を生産している乳牛を妊娠させるための主な手段は人間による人工授精です。その人工授精により安定した受胎率を得るためには、適切な人工授精のタイミングを見極めることが必要です。人工授精のタイミングを考えるうえで、人工授精から排卵までの時間(IOI)が受胎に及ぼす影響を考慮することが重要となりますが、排卵時期を調べるためには直腸検査を頻回に行う必要があるため、IOIと受胎率との関連を示すデータの蓄積は不十分でした。また、1度しか出産を経験しておらず自身も発育段階にあるウシ(1産次)と2回以上の出産経験があり既に自身の発育が完了しているウシ(2産次以上)でのIOIと受胎率との関係の違いについても調査が進んでいませんでした。
大阪公立大学大学院 獣医学研究科の古山敬祐准教授は地方独立行政法人北海道立総合研究機構酪農試験場および一般社団法人ジェネティクス北海道との共同研究により、泌乳牛183頭(延べ522回の人工授精)を対象に2011年から2018年まで調査を行い、IOIと受胎率との関係に産次が及ぼす影響について分析を行いました。
その結果、2産次以上のウシの場合はIOIが6〜12時間の場合に受胎率は最も高くなるが、1産次のウシの場合は人工授精から24時間以内に排卵が起きた場合の受胎率は50%以上であり、IOIが受胎率に及ぼす影響は認められませんでした。このデータは、2産次以上のウシの最適なIOIは、1産次のウシに比べて狭いことを示唆するもので、酪農家、家畜人工授精師および獣医師が人工授精のタイミングを考える際の重要な知見になると期待されます。
本研究成果は、2023年4月20日にWiley-VCHが刊行する国際学術誌「Reproduction in Domestic Animals」へオンライン掲載されました。
本研究は、8年間昼夜問わずウシを触りながらコツコツ集めた泥臭いデータをまとめたものです。人工授精のタイミングを考える上で、人工授精から排卵までの時間が重要だと多くの論文で言及されながらもその根拠となるデータは不足していました。本研究はその根拠の一つとなるだけでなく、人工授精から排卵までの時間と受胎との関係に産次(出産回数)が関わるという新しい知見を提示しました。一つ一つの根拠を積み重ねることで酪農家は受胎率を高く維持できます。本研究がその一助となることを強く期待しています。
古山 敬祐准教授
掲載誌情報
【掲載誌】Reproduction in Domestic Animals
【論文名】The parity affects the relationship between the insemination–ovulation interval and the conception rate in lactating dairy cows
【著者】Keisuke Koyama, Tomoaki Kubo, Takeshi Koyama, Yoshiyuki Takahashi
【掲載URL】https://doi.org/10.1111/rda.14363
本研究に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院 獣医学研究科
准教授 古山 敬祐(こやま けいすけ)
TEL:072-463-5354
E-mail:koyama-keisuke[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
該当するSDGs