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新型コロナウイルスの発症や重篤化にも影響! 宿主の遺伝子発現を阻害する因子を新たに発見

2023年6月16日

  • プレスリリース
  • 獣医学研究科

ポイント

◇mRNAの核外輸送を阻害する、新型コロナウイルスの因子を新たに発見。
◇核外輸送の阻害は症状の発症や重篤化にも繋がるため、病態解明にも寄与。

概要

生物の体内では、mRNAに転写された遺伝情報は、細胞の核から細胞質へ輸送され(核外輸送)、タンパク質に変換されることで発現します。多くのウイルスは、自己の複製や増殖に適した環境を作り出すために、さまざまな手段で宿主の遺伝子発現を抑制し病気への抵抗力を無力化することが知られています。新型コロナウイルスもその手段の一つとして、mRNAの核外輸送を阻害しますが、そのメカニズムの全体像は解明されていませんでした。

大阪公立大学大学院 獣医学研究科の片平 じゅん准教授らと、理化学研究所、大阪大学、愛媛県立医療技術大学、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所らの共同研究グループは、新型コロナウイルスが持つ因子Nsp141が、核外輸送の過程で重要な役割を果たすmRNAのキャップ構造2の類似体(メチル化GTP3)を細胞内で量産することで、核外輸送を阻害することを解明しました。mRNAの核外輸送の阻害は、新型コロナウイルス感染症の発症や重篤化に深く関与するため、本感染症の病態解明においても重要な知見となると考えられます。

本研究成果は、Oxford University Pressが刊行する国際学術誌「Nucleic Acids Research」のオンライン速報版に、2023年6月1日に掲載されました。

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Nsp14によるmRNA核外輸送阻害の概略図

片平 じゅん准教授のコメント

大学院生の頃から核-細胞質間における物質輸送の分子機構に興味を持ち研究してきました。一見難解で何の役に立つのかわからないような基礎研究の成果が、創薬や治療法開発など、多くの人に役立つ研究につながれば本望です。

用語解説

※1 Nsp14(non-structural protein 14)…ウイルスの複製に関係する酵素タンパク質。
※2 キャップ構造…mRNAの5’-末端に見られる構造で、mRNAの転写や核外輸送、タンパク質の生成において、さまざまな反応を促進する目印の機能を担う。構造中にメチル化GTPを含んでいる。
※3 メチル化GTP…GTP(グアノシン三リン酸)のグアニン塩基のN7位にメチル基(図中の赤字)が付加されたもの。

掲載誌情報

【発表雑誌】Nucleic Acids Research
【論文名】Nsp14 of SARS-CoV-2 inhibits mRNA processing and nuclear export by targeting the nuclear cap-binding complex
【著者】Jun Katahira, Tatsuya Ohmae, Mayo Yasugi, Ryosuke Sasaki, Yumi Itoh, Tomoko Kohda, Miki Hieda, Masami Yokota Hirai, Toru Okamoto, Yoichi Miyamoto
【掲載URL】https://doi.org/10.1093/nar/gkad483

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 獣医学研究科
准教授 片平 じゅん(かたひら じゅん)
TEL:072-463- 5326
E-mail:f21934z[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

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