最新の研究成果
作業療法で用いられている集団作業の効果を実証 ~2人で場を共有して個人作業をすると緊張が緩和~
2023年7月20日
- プレスリリース
- リハビリテーション学研究科
ポイント
◇作業療法で用いられている集団や手工芸活動などの治療効果を、脳波による「集中」の指標と心電図による「自律神経活動」の指標で分析
◇2人で場を共有した各自の手工芸活動時に、副交感神経が有意に高まることが明らかに
◇2人(各自の作業/非作業者は観察者)の手工芸活動時、Fmθ※1の脳波出現者は副交感神経活動が有意に高まることが明らかに
概要
精神科における作業療法は、対象者と治療者の関係のみならず作業活動や集団も治療の一部と捉えられています。これまで臨床現場では、同じ部屋で各自が別の作業を行うパラレルな場※2での手工芸活動は作業療法として有効とされてきましたが、その具体的な効果は実証されていませんでした。
大阪公立大学リハビリテーション学研究科の大類 淳矢大学院生(博士後期課程2年、大阪保健医療大学助教)、石井 良平教授、大阪河﨑リハビリテーション大学 白岩 圭悟助教らの研究グループは、30名の健康な若年成人を対象として、1人、2人(各自の作業)、2人(非作業者は観察者)の3つの条件で、手工芸活動中の脳波と自律神経活動を測定し解析を行いました。
その結果、リラックス効果を表す副交感神経活動は1人より2人(各自の作業)で有意に高まることが明らかになりました。また、2人(各自の作業/非作業者は観察者)の手工芸活動において、集中状態の指標となるFmθが出現した人は、出現していない人より副交感神経活動が有意に高まることも明らかになりました。
<測定の様子>
本研究の結果、作業療法の治療構造である「パラレルな場」で各自が手工芸活動に集中することが、緊張の緩和やリラックスの観点で有効であることが示唆されました。
本研究は、2023年7月4日(火)に国際学術誌「Neuropsychobiology」にオンライン掲載されました。
精神科での作業療法はその治療効果や機序の説明が難しいとされてきました。生理学的な観点からの研究の結果、直接触れたり話したりせずとも、他者と一緒に、また集中して作業に取り組めば、副交感神経活動を高めることが明らかになりました。今後はより効果的な作業療法を提供するための構造や環境を明らかにしていきたいと思います。
大類 淳矢大学院生
掲載誌情報
【発表雑誌】 | Neuropsychobiology |
【論文名】 |
Social Buffering Effects during Craft Activities in Parallel Group Session Revealed by EEG |
【著者】 |
Junya Orui, Keigo Shiraiwa, Fumie Tazaki, Takao Inoue, Masaya Ueda, Keita Ueno, |
【DOI】 | https://doi.org/10.1159/000531005 |
【掲載URL】 | https://karger.com/nps/article/doi/10.1159/000531005/854272/ Social-Buffering-Effects-during-Craft-Activities |
用語解説
※1 Fmθ:精神集中を必要とする認知作業時に、前頭正中部に出現する5~7Hzの脳波成分。
※2 パラレルな場:場を共有しながらも、最小限の刺激の共有がある集団の一つの形態。
研究内容に関する問い合わせ先
リハビリテーション学研究科
教授 石井 良平
TEL:072-950-2111
E-mail:ishii[at]psy.med.osaka-u.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:田中
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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