最新の研究成果

光通信分野での新たな知見に 光の進行方向を反転することで吸収のしやすさが2倍以上変化する物質を発見

2024年1月18日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇安定した光通信に必要な光アイソレータと呼ばれる素子では、複雑な構造による大型化などが課題。
◇光通信の波長において、光の吸収のしやすさが進行方向を反転させることで2倍以上変化する物質を発見。
◇外部から磁力を加えることで、透過方向の切り替えが可能。 

概要

光通信では、レーザーの損傷やノイズを防ぐため、光を一方向にのみ透過させる光アイソレータが使用されています。一部の磁性体(磁石)が持つ光ダイオード効果1は、光の進む向きにより透過率が変化する現象で、物質単体で発現します。そのため、複雑な構造を持つ従来の光アイソレータに代わる、よりコンパクトで光強度ロスの少ない画期的な光アイソレータへの応用が期待されています。しかし実用化へは、効果の小ささや外部から磁力を加える必要があることが課題です。

大阪公立大学大学院 工学研究科の木村 健太准教授と東京大学 大学院工学系研究科の木村 剛教授の研究グループは、2価のニッケル(Ni2+)イオンが磁性を担うLiNiPO4では光通信で用いる波長の光の吸収のしやすさが、光の進行方向を反転することで2倍以上変化することを発見しました。また、外部から磁力を加えることで、光が透過しやすい方向の切り替えが可能です。

本研究成果は、米国物理学会が刊行する国際学術誌「Physical Review Letters」に、2024年1月17日にオンライン掲載されました。

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図1 光ダイオード効果の模式図
矢印は光の進む向き、円柱の大きさは光の強度を表す。LiNiPO4(灰色の板)を透過した光の強度が、光の入射方向を反転すると変化する。

光ダイオード効果は常識とはかけ離れた現象で、思いもよらぬ応用が実現する可能性があるため、研究対象として魅力的ですが、現状では動作温度が低いなど課題が山積しています。
本研究でニッケル元素を含む化合物の有用性が示されたことで、物質選択の幅が格段に広がりました。この知見を基に、より高性能な光ダイオード効果を示す物質の開発を進めます。

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木村 健太准教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Physical Review Letters
【論文名】Nonvolatile switching of large nonreciprocal optical absorption at shortwave infrared wavelengths
【著者】Kenta Kimura and Tsuyoshi Kimura
【掲載URL】https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.132.036901

資金情報

本研究は、科学研究費補助金 新学術領域研究「量子液晶の物性科学」(JP19H05823)、科学研究費補助金(JP19H01847、JP21H04436、JP21H04988)、文部科学省科学技術人材育成費補助金(卓越研究員事業)、村田学術振興財団、池谷科学技術振興財団の助成のもと行われました。

用語解説

※1 光ダイオード効果…光の入射方向を反転すると物質の透過率(あるいは吸収係数)が変化する現象。非相反光吸収や方向二色性とも呼ばれる。この現象を発現するためには、物質の空間反転対称性と時間反転対称性が共に破れている必要がある。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
准教授 木村 健太(きむら けんた)
TEL:072-252-6187
E-mail:kentakimura[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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