最新の研究成果

マイコウイルスに感染した植物病原菌は特定の農薬に弱くなることを明らかに

2024年5月23日

  • 農学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇植物病原性のモデル卵菌1に対するマイコウイルス感染の影響を解析。
◇マイコウイルスを活用した、新たな植物病害の防除法開発に期待。

概要

近年、農作物へ被害を及ぼす植物病原菌を含む真菌や卵菌などに感染するマイコウイルスが注目されています。これまで、卵菌の一つであるピシウム菌に感染するマイコウイルスが発見されていましたが、マイコウイルスに感染した際のピシウム菌の状態や遺伝子発現に与える影響は明らかになっていません。

大阪公立大学大学院農学研究科の樋口 愛華大学院生(当時博士前期課程2年)、望月 知史准教授らの研究グループは、マイコウイルスへの感染がモデルピシウム菌Globisporangium ultimumに及ぼす影響を解析しました。その結果、マイコウイルスの一種であるトティウイルス(PuRV2)感染株と非感染株には遺伝子の発現量に差があり、ウイルス感染株では薬剤耐性に関わる遺伝子群が減少することが分かりました。また、卵菌防除に使用される4種類の農薬への感受性を解析したところ、PuRV2感染株は特定の農薬(メタラキシル)へのみ感受性が高くなることを突き止めました。今後は、他の卵菌での効果の解析を進め、ウイルスを活用した新たな卵菌防除法の開発へ繋がることが期待されます。

本研究成果は、2024年5月3日に国際学術誌「Microbiological Research」のオンライン速報版に掲載されました。

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病原菌の防除において、殺菌剤に対する感受性や耐性は重要な観点です。本研究では、植物病原卵菌へのウイルス感染により、宿主菌の殺菌剤に対する感受性が変化していることが分かりました。先輩から引き継いだ研究で新たな知見が得られたことを嬉しく思うと同時に、近縁種の卵菌に感染するウイルスを用いた今後の研究に期待しています。

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樋口 愛華大学院生

本研究により、ウイルス感染の宿主菌へ影響は特定の条件下においてのみ見られる場合があることが分かりました。一見、ウイルス感染が何も影響していなさそうでもさまざまな視点から解析していく必要があります。
本研究のほとんどの時間をウイルスフリー株の作出と薬剤感受性試験に費やしました。地道な実験を根気よく頑張ってくれたおかげです。

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望月 知史准教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Microbiological Research
【論文名】Sensitivity of Globisporangium ultimum to the fungicide metalaxyl is enhanced by the infection with a toti-like mycovirus.
【著者】Aika HIGUCHI, Motoaki TOJO, Tomofumi MOCHIZUKI
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.micres.2024.127742

資金情報

本研究は、JSPS科研費(19K06059、23K05245)の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 卵菌…真菌(菌界)と同じく菌糸体を持つ微生物だが、真菌とは界レベルで分類が異なり、クロミスタ界に属する微生物。19世紀末にアイルランドで大飢饉をもたらしたジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)が有名。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院農学研究科
准教授 望月 知史(もちづき ともふみ)
TEL:072-254-8459
E-mail:tomochi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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