最新の研究成果
難治性急性骨髄性白血病の予後を改善 同種造血幹細胞移植後の患者に対する ベネトクラクスの治療効果を検証
2024年5月28日
- 医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇移植後に再発した急性骨髄性白血病は予後が非常に悪く、有効な治療法がないのが現状。
◇ベネトクラクスはドナー由来免疫細胞の抗腫瘍免疫効果を高め、移植後に再発した難治例においても生存率を改善。
◇有効な治療法がない難治性急性骨髄性白血病に対する、新たな治療法開発の一歩に繋がる。
概要
近年、急性骨髄性白血病の新たな治療薬として、白血病細胞内のBCL-2蛋白を阻害し細胞死を促す「ベネトクラクス」が開発されました。しかし、ドナー由来の免疫細胞が持つ白血病細胞への攻撃力(抗腫瘍免疫効果)を利用する同種造血幹細胞移植※において使用した際に、ドナー由来の免疫細胞に与える影響は不明であり、また、その治療効果は十分検証されていませんでした。
大阪公立大学大学院医学研究科 血液腫瘍制御学の長﨑 譲慈研究医、西本 光孝講師、中前 博久准教授、日野 雅之教授らの研究グループは、同種造血幹細胞移植後に再発した急性骨髄性白血病患者において、ベネトクラクス治療を行った患者群と年齢や性別、再発までの期間などの背景因子を合わせた対照患者群を比較し、臨床的な治療効果を検証したところ、ベネトクラクス治療群が生存率で有意に良好であることを示しました。また、ベネトクラクス治療によるドナーの免疫細胞への影響を調べたところ、ドナーの免疫細胞内ではBCL-2蛋白の発現量が増え、さらに抗腫瘍免疫効果が増強していることが明らかになりました(図1)。本研究は、同種造血幹細胞移植後に再発した急性骨髄性白血病に対するベネトクラクス治療の有効性を示唆するとともに、急性骨髄性白血病への抗腫瘍免疫効果を増強させる新規治療への発展につながる可能性があります。
本研究成果は、2024年5月14日(火)に、国際学術誌「Blood Cancer Journal」のオンライン速報版に掲載されました。
図1 同種造血幹細胞移植後のベネトクラクスの白血病細胞への作用機序
難治性の急性骨髄性白血病は予後が極めて悪く、また、治療すること自体にも大きなリスクを伴います。本研究では臨床的・基礎的な両面のアプローチにより新規治療法が難治性の急性骨髄性白血病の予後を改善させ、さらに、患者さんの治療負担を減らせる可能性を示すことができました。より効果的で安全性の高い治療法の開発につながればと考えています。
西本 光孝講師
掲載誌情報
【発表雑誌】Blood Cancer Journal
【論文名】T cells with high BCL-2 expression induced by venetoclax impact anti-leukemic immunity “graft-versus-leukemia effects”
【著者】Joji Nagasaki, Mitsutaka Nishimoto, Hideo Koh, Hiroshi Okamura, Mika Nakamae, Kazuki Sakatoku, Kentaro Ido, Masatomo Kuno, Yosuke Makuuchi, Teruhito Takakuwa, Yasuhiro Nakashima, Masayuki Hino, Hirohisa Nakamae
【掲載URL】https://doi.org/10.1038/s41408-024-01064-0
用語解説
※ 同種造血幹細胞移植…健常ドナーより採取した造血幹細胞を移植する治療法。造血幹細胞を含む末梢血や骨髄、臍帯血を患者に投与し、ドナーの免疫細胞の作用により白血病などの血液悪性腫瘍の根治を目指す免疫細胞療法。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科 血液腫瘍制御学
講師 西本 光孝(にしもと みつたか)
TEL:06-6645-3881
E-mail:nishimo[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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