最新の研究成果
抗がん剤:EGFRチロシンキナーゼ阻害剤が皮膚の色素沈着を起こすメカニズムを解明
2024年8月8日
- 医学研究科
- プレスリリース
概要
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)※1は、肺がんなどの治療薬として使用されていますが、皮膚に色素沈着が現れることがあります。しかし、その詳細は分かっていませんでした。
大阪公立大学大学院医学研究科色素異常症治療開発共同研究部門の片山 一朗特任教授、楊 伶俐特任准教授らの研究グループは、抗がん剤のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が皮膚の色素沈着に及ぼす影響とそのメカニズムを解明しました。表皮成長因子(EGF)※2およびその受容体(EGFR)※3は、細胞の成長や傷の治癒、皮膚の恒常性維持などの重要な役割を担っています。本研究グループは、新生児や成人のケラチノサイト(角化細胞)※4をはじめとする12種類の皮膚細胞において、表皮成長因子および受容体の分布を確認したところ、ケラチノサイトに優位に発現していることが明らかになりました。また、EGFR-TKIが、ケラチノサイトにおいて幹細胞因子(SCF)※5およびエンドセリン-1(ET-1)※6を著しく増加させ、メラノサイト(色素細胞)※7の移動と増殖を促進し、色素沈着を増加させることも分かりました。
本研究成果は、2024年5月5日に国際学術誌「Pigment Cell and Melanoma Research」にオンライン掲載されました。
本研究は、皮膚の色素異常症に対する新しい治療法を模索する中で、多くの挑戦と発見がありました。特にEGFR-TKIの効果を確認できたことは大変うれしく、今後の治療法開発に大きな希望を感じています。社会に役立つ研究を続け、患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。
楊 伶俐特任准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】 Pigment Cell & Melanoma Research
【論 文 名】 Effects of EGFR-TKI on epidermal melanin unit integrity:
Therapeutic implications for hypopigmented skin disorders
【著 者】 Ping Xu, Lingli Yang, Sylvia Lai, Fei Yang, Yasutaka Kuroda, Huimin Zhang, Daisuke Tsuruta, Ichiro Katayama
【掲載URL】 https://doi.org/10.1111/pcmr.13171
用語解説
※1 EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI):細胞の成長や分裂を制御するために使用される、特にがん治療において重要な薬剤。
※2 表皮成長因子(EGF):細胞の成長や分裂を促進するタンパク質で、特に傷の治癒に重要な役割を果たす。
※3 受容体(EGFR):細胞の表面にあるタンパク質で、特定の分子(この場合はEGF)と結合して細胞内に信号を伝える役割を担う。
※4 ケラチノサイト(角化細胞):皮膚の最外層に存在する細胞で、皮膚のバリア機能を担う。
※5 幹細胞因子(SCF):皮膚においてケラチノサイトから分泌され、メラノサイトの生存や移動に関わる。
※6 エンドセリン-1(ET-1):ケラチノサイトによって分泌され、メラノサイトの活性化を促進する。
※7 メラノサイト(色素細胞):メラニンという色素を生成する細胞で、皮膚や髪の色を決定する。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科
特任准教授 楊 伶俐(よう れいり)
TEL:06-6556-7618
E-mail:yang.lingli[at]omu.ac.jp
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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