最新の研究成果
磁性体におけるスキルミオンの凝縮現象の観測に成功 ― スキルミオンの凝縮が水分子の凝縮と類似することを観測した ―
2024年9月24日
- 工学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇反転対称中心注1)を持たない結晶構造を有する磁性体において、スキルミオンの凝縮過程をはじめて系統性的に追跡することに成功した。
◇スキルミオンの形成に閾値となる磁場が存在することを検証した。
◇スキルミオンの凝縮プロセスが水分子の凝縮プロセスと物理的に同じであることを明らかにした。
概要
九州工業大学大学院工学研究院の美藤正樹教授が研究代表者を務める九州工業大学、広島大学、福岡大学、大阪公立大学、岡山大学の研究グループは、磁性体中に生成されるナノメートルサイズの渦型のスピン構造体(スキルミオン注2)が、温度を下げていく過程で凝縮していくプロセスを、格子定数の温度変化を通じて観測することに成功しました。スキルミオンの数とサイズは温度や磁場によって操作でき、スキルミオンを有する磁性体は従来の強磁性磁区による磁気メモリーとは違う新しいスピンデバイスへの発展が期待されます。
本研究は、スキルミオンが規則的に並んだ格子状態は、磁気秩序温度近傍で閾値以上の磁場を印加することで安定化することを再検証したという意味でも意義があり、スキルミオンを用いたスピンデバイスを設計する上での重要な物理学的知見を与えることになります。
スキルミオンはその形状が特徴的なこともあり、電子顕微鏡による観察が一番直接的な物理的検出方法です。しかし、電子顕微鏡による直接観察には試料の薄膜化が必要ですが、薄膜化によって薄膜特有の異方性が発生します。バルク結晶の結晶構造に固有の異方性によるスキルミオン形成を研究しようとしたとき、次なる手段として磁気測定や中性子回折実験が有効であり、それらによってスキルミオンの固体相(スキルミオン格子)が存在することは実験的に知られていました。液体状態については、中性子回折で実験的にその存在が示唆されていました。しかし、スキルミオン同士が孤立した気体状態から温度を下げていく過程で引力間相互作用が働き、液体状態が安定になり、最終的に斥力相互作用が働き、格子を組んだ固体状態になるという一連の過程を、温度をパラメーターに追跡した実験は過去にはありませんでした。本研究は、一種の磁歪効果を測定することで、スキルミオン形成とその凝縮過程で結晶格子がその影響を受けてわずかに歪むことを測定したものであり、実験方法自体は既存のもので新しくはありませんが、精密結晶構造解析の必要性を再検討させるものであり、実験的に新たな境地を開拓するものです。また、格子定数の変化から判明したことは、スキルミオンの凝縮プロセスが、極性を有する異方的形状を有する水分子の凝縮プロセスと同じで、スピン構造体の凝縮現象としても面白い発見です。
今回の研究成果は、スキルミオンが安定化する磁場の存在を検証し、さらにスキルミオンの凝縮プロセスを系統的に観測できた点が実験的に新しく、スキルミオンのスピンデバイスへの利用に有益な物理学的知見を与えることが期待されます。なお、本研究成果は、2024年9月23日午前7時半(米国東部標準時)に米国応用物理学会の学術誌「Journal of Applied Physics」にFeatured Article論文として掲載されました。
掲載誌情報
【発表雑誌】Journal of Applied Physics
【論文名】Magnetostriction Related to Skyrmion-Lattice Formation in Chiral Magnet FeGe
【著者】Masaki Mito, Takayuki Tajiri, Yusuke Kousaka, Marina Miyagawa, Tamami Koyama, Jun Akimitsu, and Katsuya Inoue
【DOI】 10.1063/5.0227382
【URL】 https://doi.org/10.1063/5.0227382
用語解説
注1)反転対称中心:空間座標の全ての成分に対して、それらの符号を変えた成分の座標に移る対称性が存在するときの対称中心。
注2)スキルミオン:複数のスピンが構築する渦上のオブジェクト。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学 大学院工学研究科
准教授 髙阪 勇輔(こうさか ゆうすけ)
TEL:072-254-7296
E-mail:koyu[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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