最新の研究成果
効率化されたフローとAIで新たな有機半導体の合成に成功
2024年9月30日
- 工学研究科
- 理学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇AIを用いた新しい有機半導体分子の設計、分岐的合成※1、評価を実施。
◇有機半導体分子に水素結合アクセプター原子※2を導入した場合、より強固な分子間相互作用がはたらき、有機半導体特性が向上することを機械学習により発見。実際に合成した半導体分子においても、その傾向があることが判明。
概要
有機半導体※3は有機ELディスプレイや有機太陽電池など、さまざまなデバイスに応用されています。有機半導体の性能向上を目指し、これまでは候補となる材料一つ一つを実際に合成してデバイスを作成し、評価していました。そのため、有機半導体分子の設計段階で特性を見極めることができれば、より効率的な開発方法が生まれると考えられます。
大阪公立大学大学院工学研究科の大垣 拓也特任助教、松井 康哲准教授、内藤 裕義特任教授、池田 浩教授、理学研究科の麻田 俊雄教授らの共同研究グループは、機械学習モデルを用いて、窒素や硫黄を導入した7種類の新たな有機半導体分子を設計し、合成、評価を行いました。その結果、機械学習で予測していた通り、分子間相互作用が強い分子は比較的高い正孔移動度※4を示し、有機半導体としての性能が高いことが明らかになりました。本研究結果は、機械学習を利用した有機エレクトロニクスの発展に貢献することが期待されます。
図1 シミュレーション、合成、評価のフロー
本研究成果は、2024年7月22日に国際学術誌「Chemistry — A European Journal」 にオンライン掲載されました。
AIを使った物質開発の研究はますます本格化していきますが、AIの学習と研究者の経験を組み合わせた新材料開発が今後は重要となっていくと考えます。
掲載誌情報
【発表雑誌】Chemistry – A European Journal
【論 文 名】Machine Learning-Inspired Molecular Design, Divergent Syntheses, and X-Ray Analyses of Dithienobenzothiazole-Based Semiconductors Controlled by S•••N and S•••S Interactions
【著 者】Takuya Ogaki, Yasunori Matsui*, Haruki Okamoto, Naoyuki Nishida, Hiroyasu Sato, Toshio Asada, Hiroyoshi Naito, Hiroshi Ikeda*(*責任著者)
【掲載URL】https://doi.org/10.1002/chem.202401080
参考論文
【発表雑誌】Bulletin of the Chemical Society of Japan
【論 文 名】Computational Approach for Molecular Design of Small Organic Molecules with High Hole Mobilities in Amorphous Phase Using Random Forest Technique and Computer Simulation Method
【著 者】Keijin Nakaguro, Yuki Mitsuta, Shiro Koseki, Tomohiro Oshiyama, Toshio Asada* (*責任著者)
【掲載URL】https://doi.org/10.1246/bcsj.20230130
【動画URL】https://youtu.be/phbXhgnVU2Q
【発表雑誌】The Journal of Organic Chemistry
【論 文 名】Amorphous Solid Simulation and Trial Fabrication of the Organic Field-Effect Transistor of Tetrathienonaphthalenes Prepared by Using Microflow Photochemical Reactions: A Theoretical Calculation-Inspired Investigation
【著 者】Atsushi Yamamoto, Yasunori Matsui, Toshio Asada, Motoki Kumeda, Kenichiro Takagi, Yu Suenaga, Kunihiko Nagae, Eisuke Ohta, Hiroyasu Sato, Shiro Koseki, Hiroyoshi Naito, Hiroshi Ikeda*(*責任著者)
【掲載URL】https://doi.org/10.1021/acs.joc.6b00117
資金情報
本研究の一部は、科学研究費助成事業(科研費)(JP22K05069、22K14667、JP21H04564、JP21H05494、P20H02716、20K15264、JP19H00888、JP17H01265)、特に学術変革領域研究(A)デジタル有機合成(JP21A204、JP24H01092、JP22H05377)、大阪公立大学戦略的研究支援事業、コニカミノルタ科学技術振興財団からの支援を受けて行われました。
用語解説
※1分岐的合成:最終段階で多種類の化合物に誘導する合成ルート。直線的合成や収束的合成といった手法と比べ、多種類の化合物を効率的に得ることができる。
※2 水素結合アクセプター原子:水素結合を形成する水素以外の原子。酸素、窒素、フッ素など。
※3 有機半導体:有機物からなる半導体。正孔を流すp型と電子を流すn型に大別される。シリコンなどの無機半導体と異なり、溶媒を用いた溶液プロセスにより素子作製が可能。
※4 正孔移動度:半導体膜中を正孔が単位電界強度の下で単位時間あたりに移動する平均距離。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
教授 池田 浩(いけだ ひろし)
TEL:072-254-9289
E-mail:hiroshi_ikeda[at]omu.ac.jp
准教授 松井 康哲(まつい やすのり)
TEL:072-254-9294
E-mail:matsui_yasunori[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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