最新の研究成果

~老化の理解と加齢性疾患の予防に向けて~ さまざまなタンパク質の老化による量的変化を網羅的に分析

2024年10月16日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇若齢~老齢マウスの主要組織8種類における全てのタンパク質とRNAを解析し、加齢により変化する遺伝子を網羅したデータベースを構築。
◇タンパク質レベルの加齢変化の大きな特徴として、細胞外マトリックス1のタンパク質の増加が多くの組織において認められた。
◇分子レベルの老化メカニズム解明の加速に期待。

概要

超高齢社会の日本において、生活習慣病やアルツハイマー病などの加齢性疾患の予防は喫緊の課題です。その解決には、まず、老化が身体に分子レベルでどのような変化を与えるかを包括的かつ定量的に評価することが重要です。これまでに、生体細胞内においてどの程度mRNAが生成されているかを把握し、主要組織の加齢変化を描いたアトラス(地図)は整備されてきました。しかし、mRNAから翻訳されて生じ、実際に細胞や組織の機能を担うタンパク質については、その存在量が必ずしも対応するmRNAの量だけで決まるわけではないにも関わらず、加齢に伴うタンパク質の変化のアトラスはまだ整備されていませんでした。

大阪公立大学大学院医学研究科病態生理学の高杉 征樹講師、大谷 直子教授らの研究グループは、若齢(6ヶ月齢)~老齢(30ヶ月齢)のマウスの脳、動脈、心臓、腎臓、肝臓、肺、骨格筋、皮膚の全組織画分2および細胞外マトリックス濃縮画分3のプロテオーム4と、トランスクリプトーム5を解析することにより、包括性の非常に高いデータベース“Mouse aging proteomic atlas”を構築。このアトラスを用いることで、主要組織において加齢の影響を受けるタンパク質群の特徴を解析することが可能になり、多くの組織において細胞外マトリックスのタンパク質が加齢によって増加していることが判明しました。本研究結果は、分子レベルの加齢変化の把握に貢献することが期待できます。

本研究成果は、国際学術誌「Nature Communications」に2024年10月2日にオンライン掲載されました。

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Mouse aging proteomic atlasのトップページイメージ

https://aging-proteomics.info/

アンチエイジングに注目が集まる昨今ですが、加齢変化そのものの理解が未だ不十分な実態があります。本研究では哺乳動物モデルとしてマウスを用い、タンパク質の発現パターンを組織横断的に、若齢動物から十分に老化した高齢マウスまで含めて包括的に評価した、老化のサイエンスを支える情報基盤を確立しました。

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高杉 征樹講師

用語解説

※1 細胞外マトリックス:組織・臓器中に存在する非細胞性の構成成分。

※2 全組織画分:組織全てのタンパク質を含んだ試料のこと。全組織画分を解析すると組織全体の状態が把握できる。

※3 細胞外マトリックス濃縮画分:可溶性の高いタンパク質を洗い落とし、それ以外のタンパク質をより高い解像度で解析できるようにしたサンプル。

※4 プロテオーム:タンパク質(protein)と、総体を意味する(ome)を合わせた造語がプロテオーム(proteome)である。プロテオーム解析により対象物に含まれるタンパク質を網羅的に解析することができる。

※5 トランスクリプトーム:生命の地図であるDNAは一度RNAに転写されてからアミノ酸に翻訳された後、立体構造が整えられて機能を持つタンパク質となる。RNAは転写による産物のため、転写物(transcript)と、総体を意味する(ome)を合わせた造語がトランスクリプトーム(transcriptome)である。トランスクリプトーム解析により対象物に含まれるRNAを網羅的に解析することができる。

掲載誌情報

【発表雑誌】Nature Communications
【論 文 名】An atlas of the aging mouse proteome reveals the features of age-related post-transcriptional dysregulation
【著  者】Masaki Takasugi*, Yoshiki Nonaka, Kazuaki Takemura, Yuya Yoshida, Frank Stein, Jennifer J. Schwarz, Jun Adachi, Junko Satoh, Shinji Ito, Gregory Tombline, Seyed Ali Biashad, Andrei Seluanov, Vera Gorbunova, Naoko Ohtani* (* 共同責任著者)

【掲載URL】https://doi.org/10.1038/s41467-024-52845-x

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科病態生理学
講師:高杉 征樹(たかすぎ まさき)
TEL:06-6645-3711
E-mail:mtjfcr[at]gmail.com

教授:大谷 直子(おおたに なおこ)
E-mail:naoko.ohtani[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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