最新の研究成果

-生命発生の神秘に迫る- 脊椎動物の体軸伸長に重要な分子機構を解明

2024年11月5日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇小型の熱帯魚ゼブラフィッシュを用いて、体の軸となる脊索1の形成過程を観察。
◇脊索の正常な形成時に排除されるべき分子が残っていると、脊索が上手く形成されないことが明らかに。

概要

ヒトや動物、魚などの生物は、受精卵から細胞分裂を繰り返して成長します。受精卵から体の複雑な形や器官を作り上げるためには、分裂した細胞の適切な場所への移動が必要です。しかし、その仕組みは謎も多く、出生前に生じる身体的な異常の原因求明のためにも、生命発生メカニズムの解明が求められています。

大阪公立大学大学院医学研究科脳神経機能形態学の甲斐 理武講師、近藤 誠教授の研究グループは、分裂した細胞が移動し、体の前後成長の軸となる脊索を形成する際に排除される分子(PAPC2)に着目。ゼブラフィッシュの受精卵を用いて、脊索の形成時にPAPCが排除される場合と排除されない場合の、脊索の構造変化を観察しました。その結果、PAPCが排除されない場合では、細胞が適切な場所に移動せず、脊索が上手く形成されないことが分かりました(図1)。またPAPCは、一つ一つの細胞や組織全体が細胞の移動・入れ替わりの際に発揮する力を抑制し、脊索の形成を阻害することが明らかになりました。

本研究成果は、2024年10月28日に国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン速報版に掲載されました。

press_1105図1 脊索が正常に形成されたゼブラフィッシュ(左)と形成異常が起こったゼブラフィッシュ(右)

研究グループのコメント

研究対象としているゼブラフィッシュ胚が、顕微鏡の下でわずか数時間のうちに体の基本構造を作り変える様子は、何度見ても興味が尽きることはありません。この研究では、体軸の伸長に関わるメカニズムの一端を明らかにすることに挑戦しました。基本的な生命現象の仕組みを解明する研究の面白さが伝われば幸いです。

掲載誌情報

【発表雑誌】Scientific Reports
【論文名】Suppression of Pcdh8/Paraxial protocadherin is required for efficient neighbor exchange in morphogenetic cell movement during zebrafish notochord formation
【著者】Masatake Kai, Makoto Kondo
【掲載URL】https://doi.org/10.1038/s41598-024-76762-7

資金情報

本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP22K06815、JP22K11498)および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(JP21wm0525026、JP20lm02003007)の助成を受けたものです。

用語解説

※1 脊索(せきさく)…脊椎動物の発生過程で現れる構造。動物の正中軸となって体軸の伸長に中心的な働きをするほか、中枢神経や脊柱の分化・誘導などを制御するシグナルの発信源となる。

※2 PAPC (Paraxial protocadherin)…細胞間の接着に関与するプロトカドヘリン・ファミリーに属するタンパク質。脊索の形態形成の開始とともに脊索領域で遺伝子の発現が抑制され、タンパク質も排除される。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科脳神経機能形態学
TEL:06-6645-3706
講師 甲斐 理武(かい まさたけ)
E-mail:kai[at]omu.ac.jp
教授 近藤 誠(こんどう まこと)
E-mail:mkondo[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。