最新の研究成果
損傷した光合成タンパク質の修復速度と生息地の気温との相関が明らかに
2024年11月27日
- 理学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇強い光エネルギーにより光合成タンパク質が損傷する“光阻害”からの修復速度が、生育地の気温が異なる植物間で違いがあるかを検証。
◇寒冷な地域に生息するシロイヌナズナほど、低温(12℃)にさらされたとき、低温環境下(5℃)での修復速度をより上昇させる順応力を持っている。
概要
光合成は植物が光エネルギーを利用して、生命の維持に必要なデンプンや酸素を作り出す反応です。しかし、光エネルギーが強すぎると光合成を行うタンパク質が損傷する光阻害が起こります。植物は光阻害を防ぐために、さまざまな防御機構を備えていますが、光阻害に強い植物種の研究・開発のためにも、どのような植物がより光阻害を受けにくいかを知ることが重要です。
大阪公立大学大学院理学研究科の小口 理一准教授と東北大学、オーストラリア国立大学の共同研究グループは、寒冷な環境では壊れた光合成タンパク質の修復速度が低下することに着目。世界各地、さまざまな年平均気温の地域(-3℃~18℃)に生息するシロイヌナズナ298グループを22℃で生育し、低温(5℃)での修復速度を調べました。当初、寒冷な地域に生息するシロイヌナズナほど、低温での修復速度が速いと予測しましたが、生育地の気温による違いは見られませんでした。そこで、22℃での生育後、3日間寒冷な環境(12℃)に順化させ、5℃での修復速度を調べたところ、生息地の気温が低いシロイヌナズナほど、低温での修復速度が速いことが分かりました。
図1 クロロフィル蛍光の観測の様子(赤い光が蛍光)
強い閃光を当てた時の蛍光の変化が小さいほど、光阻害が大きい
本研究成果は、2024年11月27日に、国際学術誌「Plant, Cell and Environment」のオンライン速報版に掲載されました。
生態系を支える光合成は光を駆動力としていますが、光エネルギーは植物に損傷(光阻害)をもたらします。低温では光阻害の修復が難しいため、植物は修復能力を高めて対応する一方、低温にさらされる前は修復能力にかかるコストを抑えている様子が伺えて、植物の戦略が垣間見えたようで嬉しかったです。
小口 理一准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】Plant, Cell and Environment
【論文名】An intraspecific negative correlation between the repair capacity of photoinhibition of cold acclimated plants and the habitat temperature
【著者】Riichi Oguchi, Soichiro Nagano, Ana Pfleger, Hiroshi Ozaki, Kouki Hikosaka, Barry Osmond and Wah Soon Chow
【掲載URL】https://doi.org/10.1111/pce.15270
資金情報
本研究の一部は、JSPS科研費(17KK0142、JP16K18614)からの支援を受けて実施しました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
准教授 小口 理一(おぐち りいち)
TEL:072-891-2681
E-mail:oguchi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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