最新の研究成果
サカナの第3の目における1細胞2役のメカニズムを解明
2025年1月16日
- 理学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇光を感知する役割を担う光受容タンパク質※1の不活性化において、最も重要な働きをするタンパク質の一つであるアレスチン※2を調査し、2種類のアレスチンを発見。
◇一つの細胞での光感知と色検出の働きは、2種類のアレスチンが光の強弱によって切り替わることで起きることを解明。
概要
魚類など哺乳類以外の多くの脊椎動物は、目だけでなく、脳内の松果体※3という器官で光を感じたり色を検出したりすることが分かっています。
大阪公立大学大学院理学研究科の寺北 明久教授、小柳 光正教授、沈 宝国博士(研究当時、大学院生)、和田 清二博士(研究当時、特任助教)、東京大学理学系研究科の小澤 岳昌教授らの研究グループは、ゼブラフィッシュの松果体において光を感知する光受容タンパク質のパラピノプシン1※4(PP1)を含む1種類の光受容細胞※5(PP1細胞)の色検出で、光受容タンパク質の不活性化に最も重要な働きをするタンパク質の一つであるアレスチンについて調査。その結果、2種類のアレスチン(Saga/bとArr3)の存在を明らかにしました。また、弱い光にはArr3が素早い不活性化に利用され、強い光にはSagbがゆっくりとした不活性化を担うことが分かりました。さらに、アレスチンのPP1への親和性は、Arr3がSagbよりも高いことが示唆されました。これらの結果から、光が弱い時は光の有無を感知し、光が強い時は色を検出するという、一つの細胞で二つの働きを担うには、2種類のアレスチンが光の強弱によって切り替わることで起きると判明しました。
今回の発見により、1細胞に複数種類あるアレスチンを刺激の強さに応じて使い分けている可能性も考えられ、アレスチンの機能解明に向けた重要な研究成果といえます。また、1種類の光受容タンパク質による色識別のメカニズムを解明したことは、パラピノプシンを用いて細胞を光の色で制御する技術の実現にも寄与するものと期待されます。
本研究結果は、2024年12月28日に国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。
ゼブラフィッシュ
この研究中、私は数々の失敗を経験し、またトラブルも多かったです。その一方で、PP1細胞に初めてArr3aを同定したときは、2日間興奮しっぱなしだったことを今でも鮮明に覚えています。とにかく、この研究は私にとても幸せをもたらし、そして自分を成長させてくれました。
沈 宝国博士
(現、温州医科大学 博士研究員)
掲載誌情報
【発表雑誌】iScience
【論 文 名】Light intensity-dependent arrestin switching for inactivation of a light-sensitive GPCR, bistable opsin
【著 者】Baoguo Shen, Seiji Wada, Tomohiro Sugihara, Takashi Nagata, Haruka Nishioka, Emi Kawano-Yamashita, Takeaki Ozawa, Mitsumasa Koyanagi, Akihisa Terakita
【掲載URL】
https://doi.org/10.1016/j.isci.2024.111706
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S258900422402933X
資金情報
本研究は、日本学術振興会科研費基盤研究(S) JP15H05777、基盤研究(B) JP23H02516、JP18H02482、JP22H02663、若手研究 JP18K14751、基盤研究(C)JP21K06265、 JP20K15844、基盤研究(A)JP22H00322、科学技術振興機構(JST) CREST JPMJCR1753の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 光受容タンパク質:オプシンとも呼ばれ、視覚の光受容タンパク質である視物質と似たタンパク質である。光をキャッチし、細胞内において情報伝達を担う別のタンパク質(Gタンパク質)に光の情報を引き継ぐ。Gタンパク質に情報伝達する受容体ファミリーであるGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一種。
※2 アレスチン:光受容タンパク質やGPCRに結合し、Gタンパク質への情報伝達を阻害するタンパク質(※1参照)。アレスチンによる情報伝達の停止は、光応答の時間分解能や感度調節の点から重要であり、視覚においてアレスチンの働きが十分でないと残像やまぶしさが生じると考えられる。
※3 松果体:脳内のメラトニンの内分泌器官。哺乳類を除く多くの脊椎動物の松果体やその関連器官は光を受容することから第3の目とも呼ばれる。爬虫類、両生類、硬骨魚類、円口類の松果体関連器官は、光の有無・強弱だけでなく、UVと可視光の比率など、「色」の違いも検出する。
※4 パラピノプシン1:哺乳類と鳥類を除く多くの脊椎動物の松果体関連器官に特異的に存在するUV感受性の光受容タンパク質であるパラピノプシンの一種。硬骨魚類は、パラピノプシン1と2の2種類のパラピノプシンを持つ。
※5 光受容細胞:光受容タンパク質を含み、光を受容することに特化した細胞。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
教授 寺北 明久(てらきた あきひさ)
TEL:06-6605-3144
E-mail:terakita[at]omu.ac.jp
教授 小柳 光正(こやなぎ みつまさ)
TEL:06-6605-2583
E-mail:koyanagi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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