最新の研究成果
官僚制度の歴史的変遷を経済学的に分析 -民主化より国家建設を先に実現することが重要と示唆-
2025年1月27日
- 経済学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇官僚制度が十分に発展していなかった国では、政治家が自身への投票と引き換えに支持者に公職を提供する恩顧主義が蔓延すると予想される。
◇官僚制度の質が低かった国では、普通選挙の経験と現在の制度の質に負の関係がある。
概要
経済成長に関する最新の研究では、民主的な制度を通じて国家権力の濫用を防ぐことが、その国の発展に重要であると報告されています。しかし、市民の政治参加により国家の統治能力に制限をかけつつ行政能力を改善するという、相反する二つの要求に対して社会がどのように変遷するのかは先行研究が少なく、今後の重要な研究テーマと考えられていました。
大阪公立大学大学院経済学研究科の岡澤 亮介准教授らの研究グループは、国家能力に大きく影響する官僚制度の質に注目し、その歴史的変遷について経済モデル※を用いて分析。その結果、歴史的に官僚制度が十分に発展していなかった国では、政府が公共サービスを提供するよりも、政治家が自身への投票と引き換えに支持者に公職を提供する恩顧主義が蔓延すると予想されました。そして、腐敗した政府のもとでは官僚制度の質がさらに低下し、社会が悪循環に陥る可能性が高いことが分かりました。また、政府機能が未成熟な段階における民主化は、公職提供による票の買収行為を促進してしまうため、制度の発展を妨げると考えられることが判明。この理論予測の妥当性を確認するために、1900年~2000年の世界108か国のデータを分析した結果、過去に官僚制度の質が低かった国では、普通選挙の経験と現在の制度の質の間に負の関係があることが明らかになりました。本研究結果は、社会が「民主主義」より「国家建設」を先に実現することが重要である可能性を示唆しています。
本研究成果は、2024年12月17日に国際学術誌「Journal of Development Economics」にオンライン掲載されました。
普通選挙の経験年数が官僚制に与える影響
各国の普通選挙の経験と現在(2000年時点)の官僚制度の質のスコアの関係(縦軸:影響の推定値)が過去(1900年時点)の官僚制度の水準(横軸)によって大きく違っていることを示す。グラフ右側は、昔から官僚制度が成熟していた国において普通選挙は現在の官僚制のスコアにプラスの影響を与えることを示しているのに対し、グラフ左側は、官僚制度の質が低かった国において普通選挙は制度にマイナスの影響を与えることを示している。
民主主義や国家建設などといった壮大なテーマについて、政治学や社会学など隣接分野の研究も参照しながら経済学のツールを応用して分析するという作業はとても大変なものでしたが、同時に刺激的な体験でした。着想から論文の掲載までに5年以上の歳月が経過しましたが、無事に成果を出すことができて非常に嬉しく思っています。
岡澤 亮介准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】Journal of Development Economics
【論 文 名】A dynamic theory on clientelism and bureaucratic development
【著 者】Nobuhiro Mizuno, Ryosuke Okazawa
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.jdeveco.2024.103438
資金情報
本研究は日本学術振興会の科研費(JP23K01423、JP23K01446)の助成を受けて実施しました。
用語解説
※ 経済モデル:経済学の理論研究では複雑な社会の動きを分析するために、経済モデルと呼ばれる現実社会の模型を組み立て、モデルの分析を通じて社会の動きを解明する。典型的な経済モデルは市場や企業など経済活動を描写したものが多いが、近年では本研究のように政治や文化などの要因をモデルに組み入れることも多い。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院経済学研究科
准教授 岡澤 亮介(おかざわ りょうすけ)
TEL:06-6605-2286
E-mail:okazawa[at]omu.ac.jp
[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
[at]を@に変更してください。
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