最新の研究成果
肝臓がん治療選択のための新たな指標を提案
2025年1月31日
- 医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇肝細胞癌の治療として、全身化学療法※1とカテーテル治療※2を組み合わせた新たな治療法が注目されている。
◇新規治療法が患者に合うかを見極める新たな指標を提案。
概要
肝細胞癌の治療法には、外科切除術、焼灼療法、全身化学療法、カテーテル治療、肝移植などがあります。近年新たに開発された、全身化学療法とカテーテル治療を組み合わせた治療法がより良い治療成績を示しており、世界的に注目されています。全身化学療法を安全かつ効果的に行うためには、肝臓機能障害の重症度を示すChild-Pugh分類※3が、三段階のうちで一番良好なクラスAであることが求められます。しかし、カテーテル治療直後に肝機能が良好な状態を保つ患者にはどのような特性があるのか、十分に明らかになっていませんでした。
大阪公立大学大学院医学研究科 放射線診断学・IVR学の淺野 数男大学院生(大阪市立大学大学院医学研究科博士課程4年)らの研究グループは、2010年から2020年に大阪市立大学医学部附属病院(現・大阪公立大学医学部附属病院)で受診した肝細胞癌患者152人を対象に、カテーテル治療前と治療1か月後の肝機能を調査。Child-Pugh分類のクラスAを維持した患者とクラスBに悪化した患者を比較したところ、カテーテル治療前の血清アルブミン値、プロトロンビン時間、最大腫瘍径の3項目に違いがあることが分かりました。さらに、この3項目のうち2項目を満たす患者は14.3%、3項目全てを満たす患者は70%がクラスBに悪化していました。
本研究の結果、この3項目を予後因子として用いることで、カテーテル治療により肝機能が悪化するリスクの高い患者を治療前に予測することが可能になります。そのため、中期の肝細胞癌において、カテーテル治療と全身化学療法のどちらを優先すべきかを判断でき、治療成績の向上が期待されます。
本研究成果は、2024年11月2日に国際学術誌「Cancer Medicine」にオンライン掲載されました。
カテーテル治療1か月後のChild-Pugh分類を解析した結果、予後因子数によりクラスBへの悪化に影響があると判明。
本研究の結果に基づけば、肝臓癌に対して広く用いられている検査値を活用した分類によって、より適切な治療の選択が可能であると考えられます。この研究が、肝臓癌に苦しむ患者さんの治療に少しでも貢献できることを願っております。
淺野 数男大学院生
掲載誌情報
【発表雑誌】Cancer Medicine
【論 文 名】Predictors of Immediate Deterioration of the Child-Pugh Classification From A to B After Transcatheter Arterial Chemo-Embolization for Treatment-Naïve Hepatocellular Carcinoma
【著 者】Kazuo Asano, Ken Kageyama, Akira Yamamoto, Atsushi Jogo, Mariko Nakano, Kazuki Murai, Yoshimi Yukawa-Muto, Naoshi Odagiri, Kohei Kotani, Ritsuzo Kozuka, Etsushi Kawamura, Hideki Fujii, Sawako Uchida-Kobayashi, Masaru Enomoto, Norifumi Kawada, Yukio Miki
【掲載URL】https://doi.org/10.1002/cam4.70367
用語解説
※1 全身化学療法:分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる抗癌剤を点滴や内服薬として投与する治療法。初回以外は外来通院にて行い、肝臓に限らず転移などの全身の腫瘍に効果があるが、副作用も全身に出現する危険性もある。基本的には、肝機能が良好(Child-Pugh分類クラスA)な場合のみ適応となる。
※2 カテーテル治療:カテーテルと呼ばれる非常に細い管を血管内で肝臓まで進め、肝臓癌の近くから細胞障害性の抗癌剤と血管を閉塞させる薬剤を投与する治療法。肝臓にのみ薬剤を投与するため、副作用も肝臓のみに見られることが多く、手術による傷も数mm程度と身体への負担が少ない。
※3 Child-Pugh分類:肝機能の状態を評価するスコアリングシステムで、主に慢性肝疾患や肝硬変の重症度を判断する際に用いられる。この分類は、血液検査、画像検査、診察に基づく5つの評価項目に対し、それぞれ1~3点を付け、合計点によって肝機能の状態を3つのクラス(A~C)に分類する。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科 放射線診断学・IVR学
淺野 数男(あさの かずお)
TEL:06-6645-3831
E-mail:k.asano[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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