最新の研究成果

局所的な量子もつれの度合いを計算する公式を新たに導き出し、ナノサイズ材料におけるその振舞いを解明

2025年2月4日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇強相関電子系1を構成する原子集団から任意に選ばれた一つまたは二つの原子と、系のその他部分である環境系間の局所的な量子もつれに着目。
◇導出した公式をナノサイズの人工磁性体や希薄磁性合金2に適用し、量子もつれの様相を解明。

概要

量子もつれ状態は、例えば量子コンピュータの演算に重要な役割を果たします。これまで磁性や超伝導などの性質を示す物質内の量子もつれの研究は、物質の詳細に依存しない普遍的な性質の追究が主でした。

大阪公立大学大学院理学研究科の西川 裕規講師と吉岡 智紀大学院生(博士前期課程2年)は、強相関電子系を構成する原子集団から任意に選ばれた一つまたは二つの原子と、系のそれ以外の部分である環境系の間の局所的な量子もつれに着目し、その度合い(エンタングルメントエントロピー等)を計算する公式を導き出しました。そして、原子が直鎖状に並んだナノサイズの人工磁性体に公式を適用し、磁性体内の各原子とその環境系の量子もつれ、さらに磁性体内の二つの原子間の量子もつれを調べ、その振舞いを明らかにしました。また希薄磁性合金の系に適用し、近藤遮蔽3の過程が明確に現れる量子情報量を明らかにしました。本研究で導き出した公式をさまざまな系に適用することにより、物性の理解に新たな視点を提供することが期待できます。

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本研究成果は2025年1月7日に、国際学術誌「Physical Review B」にオンライン掲載されました。

<西川 裕規講師のコメント

エンタングルメントエントロピーを計算する式が、最終的には簡単な式になる事を発見できたのは嬉しい驚きでした。またナノサイズ人工磁性体での量子もつれの振舞いは、当初の単純な予想と異なり意外なものでした。一方、近藤遮蔽を明確に捉える量が、量子相対エントロピーであるということにたどり着くには試行錯誤が必要でした。

掲載誌情報

【発表雑誌】Physical Review B
【論 文 名】Quantum entanglement in a pure state of strongly correlated quantum impurity systems
【著  者】Yunori Nishikawa and Tomoki Yoshioka

【掲載URL】https://doi.org/10.1103/PhysRevB.111.035112

用語解説

※1 強相関電子系:電子間の反発力による相関効果が顕著な物質系。遷移金属元素、希土類元素を含む物質系やナノサイズの人工的な電子閉じ込め構造である量子ドットを含む系にその典型例がある。銅酸化物高温超伝導体も一つの例。

※2 希薄磁性合金:鉄などの磁性を持った原子が、金などの磁性を持たない金属に希薄に溶解している合金。

※3 近藤遮蔽:希薄磁性合金は通常の金属と異なり、温度を下げていくと電気抵抗の値が極小を示す近藤効果と呼ばれる現象が表れる。この現象は、低温になるにつれ電流を運ぶ担い手の多数の伝導電子が、磁性原子の磁性を遮蔽することで起きる。この遮蔽を近藤遮蔽と呼ぶ。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
講師 西川 裕規(にしかわ ゆうのり)
TEL:06-6605-2610
E-mail:nishikaway[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

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